阪神淡路大震災によってピアニストの道を絶たれた男子高校生と、ライバルで局所性ジストニアに悩む女子高校生の葛藤や音楽への思いを描いた映画「にしきたショパン」が3月20日(土・祝)、中洲大洋映画劇場(福岡市博多区)で公開されます。2019年に撮影され、震災から25年の2020年に公開の予定でしたが、新型コロナウイルスの影響でこの春まで延期となりました。その間に出品した国内外の映画祭から、数々の受賞の知らせが届いています。映画誕生の経緯や受賞についてプロデューサーの近藤修平さんに聞きました。
「震災の記憶を語り継ぐ」「左手のピアニストを応援」をテーマに
<「にしきたショパン」ストーリー> 作曲の才能もある実力派の鍵太郎(けんたろう)と、不器用ながらも大好きなピアノに向かう努力家の凛子(りんこ)。幼なじみの2人は共にピアニストを目指し、刺激し合いながら練習に励む毎日を送っていました。しかし阪神間を襲う大地震、そして局所性ジストニアという試練が迫ります。
主演は、9歳から芸能活動を始め兵庫県立西宮高校音楽科在籍中に本作出演が決まった水田汐音(しおね)と、主にモデルとして活躍している中村拳司(けんじ)。逆境によって変わりゆく人間関係や音楽への姿勢を、少ないせりふと表情や態度で表現しています。ピアノコンクールでの受賞歴を持つ水田が弾くショパンも聴きごたえあり。
「阪神淡路大震災の記憶を語り継ぐ」「左手のピアニストを応援する」をテーマにした本作。近藤さんは1995年1月の震災発生当時、大阪ガスの社員として西宮市の復旧作業を担当していたといいます。 「にしきた(西宮北口)の被災状況を目の当たりにしました。被災しても店を続けるピアノバーのマスターに出会ったことから、小説『マスター先生』を執筆し2015年に出版しました」と話します。
近藤さんはこの小説をきっかけに、ショートフィルムを手掛ける竹本祥乃(よしの)監督から映画化の話を持ち掛けられます。震災のこと、左手のピアニストのことを加えたいと伝え、話し合いを重ねて脚本が完成。「ロケ地は慣れ親しんだ西宮市内(兵庫県)の各地を当てはめていきました」
撮影は、震災前の姿を残す西宮東地方卸売市場をはじめ、神戸女学院、県立西宮高校、西宮北口周辺などで行われました。「西宮の誇りを撮っておいてほしいという地域の方を中心に応援していただき、ピアノを演奏する施設での撮影は音楽家の協力で実現しました」と振り返ります。
コロナ禍で映画館が休業や時間短縮営業となり、公開延期を決めざるを得ない中、オンラインで開催された国内外の映画祭に出品。ベルギーのアントワープ国際映画祭審査員賞、日本芸術センターの映像グランプリ脚本賞、ミラノ国際映画祭・外国語映画部門の最優秀長編作品賞などさまざまな賞に輝いています。 平日は研究技術員の仕事に就き、週末監督として活動する竹本監督の初の長編監督作品。竹本監督の作品づくりの姿勢をリスペクトする近藤さんは「(竹本監督の作品は)音楽と映像がマッチしていて、往時のヨーロッパ映画のよう。映画らしい映画だと思います。『にしきたショパン』は音楽という共通言語がベースにあって、逆境に立ち向かう人の姿は国境や人種を超えて心に響くのでは」と分析します。 ショパンやラフマニノフの名曲が若い2人の心模様に寄り添い、音楽の力を感じさせる映画です。
映画「にしきたショパン」
脚本・編集・監督:竹本祥乃 共同脚本:北村紗代子 出演:水田汐音、中村拳司、ルナ・ジャネッティ、泉高弘、茂木大輔(友情出演) ほか 3月20日(土・祝)から全国順次ロードショー 2020年/日本/90分/DCP/16:9/5.1Ch Ⓒ2020 Office Hassel