角打ち文化が根強い北九州出身の落水研仁さんが、福岡の人に「立ち飲み」の面白さを伝えたいと2015年にオープンした「MEGUSTA」。営業時間短縮や自粛の影響もあり、順風満帆とは言えない状況が続いている中、落水さんが見据えている“これから”をライターの大内 理加さんが取材しました。
まだ明るさの残る宵の内、白木戸をくぐれば見知った顔も初めての顔も盃を片手に陽気におしゃべり。実に自由で楽しい大人の時間がその店にはありました。 お店の名前は「MEGUSTA」。角打ち文化が根強い北九州出身の落水研仁さんが、福岡の人に「立ち飲み」の面白さを伝えたいと2015年にオープンしたのです。安くて気軽に通えるという本来の魅力に、スタイリッシュな雰囲気をプラスしたMEGUSTA流立ち飲み。その波が多くの人に届き、周辺に個性的なスタンディングバーが増えてきた頃、新型コロナウイルスが発生しました。飲食店の業態の中でも、カウンターがメインの立ち飲み店はどうしても人と人の距離が近くなってしまいます。しかも営業時間短縮や自粛の影響もあり、順風満帆とは言えない状況が続いています。それでも落水さんの目は静かに、そして情熱を秘めて“これから”を見据えていました。
飲み人同士のふれあいが楽しい、立ち飲み酒場を今の時代に
角打ちを楽しむ大人達の姿を見て育った落水さん。社会人になると東京や大阪、海外のバルまで、さまざまな立ち飲み酒場に足を運んだそうです。 各地で感じたのは、肩と肩を突き合わせるスタンディングバーならではのコミュニケーション。この立ち飲み文化を福岡でも広めたいという思いが「MEGUSTA」という形として誕生することになります。 落水さん 「最初のMEGUSTAは、警固で営業していたスペインバルのウェイティングバーとしてオープンしました。スタッフが注文を受けながらお客様と会話するのは厳しいので、お客様同士が仲良くなってもらうような雰囲気作りを心がけたり、価格をわかりやすく設定したり。SNSを活用したりと試行錯誤しました。」
「最初はなじみが無いだけに、「立って飲むのはきついんじゃないの?」なんてイメージが先行して苦戦しましたね。それでも、常連さんのつながりや、取材で取り上げられたこともあり、オープン4ヶ月後あたりから徐々にお客様が増えてきました。」
クラウドファンディングをオープン前のPRに活用
――MEGUSTAの2号店として赤坂に出店された「NEO MEGUSTA」では、クラウドファンディングサイト「makuake」を利用されています。こちらも開店資金を集めるためではなく、PRが目的だったとか? 落水さん 「オープンした後にマスコミで取り上げていただくことはあるんですけど、オープン前に店舗について詳しく知ってもらう機会はほとんど無いんですよね。 クラウドファンディングのページはたくさんの人が閲覧していますから、ここにオープン前の2号店の情報を記載すれば、それだけでいい宣伝になるぞと。そこでマスコミに強いMakuakeさんを選びました。」
「それでも、よくわからない人にお金は出せないじゃないですか。金額=信用と考えると、自分が今までやってきたところがどれだけ評価されているのか、それが結果に結びついてくる。その点も挑戦のきっかけになりました。」
「実際に支持いただいた方の8割が、前の店のお客様や僕の知人だったので、面白いと思っていただけたのかな。特典がオープニングレセプションパーティーの参加券でしたので、パーティー好きなインフルエンサーの皆さんが拡散してくださって、広告宣伝費として考えると正直安いという感じでした。」
Afterコロナの“個の時代”に向けてのビジョンとは?
――クラウドファンディングでさらなる手ごたえを感じたという落水さん。新型コロナウイルスが流行する直前には、立ち飲み店やスタンディングバーをはしごするイベントで再び利用を検討していたそうですね。 落水さん 「福岡はここ3年ほどの間に立ち飲みがすごく増えたんです。しかも、立ち飲みという形式上、はしごしやすいんですね。だから飲み歩きイベントを年に一度計画していました。これから盛り上がりそうな時に新型コロナウイルスが流行してしまったので、また一から出直しですね。」 ――テーブル席や個室と違って、カウンターでワイワイ楽しむ立ち飲みスタイルは、新型コロナウイルス流行の影響をモロに受けているのではないでしょうか。今後の動きについて、どのように考えていらっしゃいますか? 落水さん 「うちの場合は特にお客さん同士のコミュニケーションを促すような形態なので、当初から厳しいだろうと覚悟していたんです。それで、感染症対策を徹底しながら営業を続けて、一方でテイクアウト専門のSOUP TRUCKを立ち上げました。もともと立ち飲みしかやらないつもりだったのですが、今はそれだと厳しい。別業態にもトライしている段階ですね。」
――テーブル席や個室と違って、カウンターでワイワイ楽しむ立ち飲みスタイルは、新型コロナウイルス流行の影響をモロに受けているのではないでしょうか。今後の動きについて、どのように考えていらっしゃいますか? 落水さん 「うちの場合は特にお客さん同士のコミュニケーションを促すような形態なので、当初から厳しいだろうと覚悟していたんです。それで、感染症対策を徹底しながら営業を続けて、一方でテイクアウト専門のSOUP TRUCKを立ち上げました。もともと立ち飲みしかやらないつもりだったのですが、今はそれだと厳しい。別業態にもトライしている段階ですね。」
「SOUP TRUCKについては、正直まだビジネスと言えるところまで届いていないんです。でも、いずれは配達・テイクアウト・店内飲食に対応できる店舗を作ることを考えているので、その時に今の経験を生かしたいですね。」
「もちろん立ち飲みもこのまま続けていきます。僕がこのスタイルを続けている理由がもう一つあるんです。それは、“個の時代”に対応できるということ。 今は会社とか大人数での飲み会よりも、おひとりさまや少人数で飲みに行くことの方が増えています。コロナの影響でその流れに拍車がかかっていくのではないでしょうか。実際に、緊急事態宣言の前まではその前年と売り上げがほぼ同じだったんです。人数はめちゃくちゃ減っているんですけど、その分単価が上がった。やっぱりお客様が飲みに行ける場所が無かったんですね。」
時代の流れを肌で感じながら、次なる一手を
――飲食店の中には休業する方もたくさんいらっしゃいましたが、MEGUSTAでは営業時間を短縮しながら続けられていました。お酒を楽しむ方の居場所を守るということでもあったんですね。 落水さん 「MEGUSTAでふとした会話がコミュニケーションにつながって、そのうちコミュニティになる、というシーンを結構見てきました。そういう関係が今後ますます求められるのだと思います。そのために刺激を与えられる場所でありたいですね。 MEGUSTAにとっては、停滞=後退なので、常に動き続けて新しいものを取り入れたい。もちろん出店の計画も練っています。」 それに、福岡は飲食店のレベルがすごく高い。それはお客様の舌が肥えているからでもある。そんな中でやっていけているのは自信につながりますよね。だからこそ、“福岡の立ち飲み”を目当てに全国からお客様が来てくださるようになるまで頑張りたい。そこが達成できたら、いろんな場所でもチャレンジしたいですね。 時間があれば天神や大名周辺を歩いて、人の流れやトレンドを観察しているという落水さん。コロナの影響で暗くなった街の姿にショックを受けながらも、ポツポツと灯る明かりにホッとすることも…。お客様もそんな思いを抱いているなら立ち止まる訳にはいかないと、今日もさまざまなアイデアを練っています。 はっきりとした正解が無いまま、誰もが手探りで動いている時代。 立ち飲み文化が教えてくれたコミュニケーションの喜びやひとり時間の過ごし方が、私たちの背中を押してくれているのではないでしょうか。 なんだか美味しいお酒が飲みたくなりました。
落水研仁 「MEGUSTA」オーナー、株式会社Thinkingfor 代表取締役
2010年バーroliganを開業。2011年には同店を移転しスペインバルbuena ondaとしてオープン。その後、立ち飲み文化を普及させたいと2015年にMEGUSTAを立ち上げる。2018年には福岡市赤坂にNEO MEGUSTAを出店。そのオープニングレセプションなどを特典にクラウドファンディングサイト「makuake」を活用したところ、予定金額を上回る反響が寄せられる。2020年2月には東京初出店も実現。さらに、コロナ禍の中で飲食店の新しいスタイルとして、2020年8月からテイクアウトの食べるスープ専門店SOUP TRUCKをスタート。