私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
祖母が十一歳の春、叔母が訪ねて来た。
家で火事があり、蔵が全焼したということだった。
「全部焼けて本当に良かった」
叔母がそう話すのを聞いて、さぞ落ち込んでいるだろうと思った祖母は大変驚いた。
そのわけを尋ねると叔母は次のように語り始めた。
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ある日、叔父が大きな包みを持って帰って来た。
「これは掘り出し物だぞ!」
得意そうに包みをほどくと一枚の日本画が現れた。
美しい女性の立ち姿が描かれていたが、見た瞬間に叔母はなぜか嫌なものを感じた。
叔父がその絵を床の間に飾ってすぐに、変なことが起こり始めた。
まず、いつもそこで眠っていた猫が一切立ち入らなくなった。
毎年軒先に巣を作る燕(ツバメ)も姿を見せなかった。
夜中にげらげら笑い声がし、それを聞いた者はけがをしたり具合が悪くなる。
あの絵に何かあるに違いないと考えた叔母は、外すよう強く求めた。
叔父がしぶしぶ外した絵をあらためて見ると、女の背景に目のようなものが幾つもうっすらと浮かんでいる。
みるみる青い顔になった叔父は絵を持ってどこかへ出かけた。
数日後、画商があの絵を持って訪ねて来た
叔父としばらく話をしたのち、絵を置いて帰って行った。
「実はあの目を画家に塗りつぶしてもらうよう画商に頼んだんだ」
「それで、消えたの?」
「ひと目見るなり、どの画家も断ったんだそうだ。画商も気味が悪くなって持って来たんだと。えらいものをつかんでしまったな…」
捨てるともっと悪いことが起きるような気がした二人はお寺さんに持って行くことに決めたが、間の悪いことに住職は遠方に出かけ、しばらく戻らないということだった。
仕方がないので目につかない蔵に入れた数日後、火の気がないはずの蔵から出火してあっと言う間に焼け落ちたそうだ。
「蔵は燃えたけど、あの絵が消えてくれた方が私にとってはありがたいよ」
叔母はそう言うとホッとしたように笑顔を見せた。