ラーメン屋稼業を40年以上細々と営んだうちの父母ですが、”細々”だろうが、”太々”だろうが、商いを10年以上続けるのがどれだけ大変なことかは、やったことある人なら、おわかりでしょう。
以前も書きましたが、ラーメン店を一大ビジネス化した一風堂や一蘭などの経営能力には、只々恐れ入るばかりです。
さて、先駆者の一風堂以降、多店舗展開するラーメン屋がどんどん現われ、その勢いは衰えません。
他方、何店舗も構えて営業するカレー店は、CoCo壱番屋とかゴーゴーカレーなど限られるように見受けます。
私の住む福岡において、かつて有名な繁盛店だったカレー屋さん、だいたい無くなってます。
カレー好きの私が好きで通ったお店の数々。天神ビル地下のKサムソン、中洲大洋劇場近くの湖月、サンセルコ地下のアングロ、渡辺通りの天竺、雑餉隈近くのシェフ・・・、おいしいお店が軒並み閉店してしまい、落胆を通り越してあきらめの境地です。
ラーメン屋とカレー屋の違いはどこにあるのでしょうか。
その謎を解く答えの一つが、この本にあります。
十年ほど前、東京に転勤してすぐに買いました。ラーメンも好きですが、カレーはもっと好きです。著者は水野仁輔さん。「東京カリ~番長」を名乗り、テレビにも時々出る、「カレー愛のかたまり」みたいな方です。
表紙にも書いてある、放送作家・小山薫堂さんとの対談で水野さんは、「ラーメン屋さんって、ビジネスとして成功したいっていう野心があるじゃないですか。でもカレー屋さんにそういう人って少なくて、ほそぼそとこの味でやってればいいという人が多いんですよね」と語ります。
それを受けて小山さんが、「ラーメン屋さんっていうのは、宗教家なんですよ。信者を増やして、頂点にいて、信者が持ち上げていってくれる。カレー屋さんっていうのは、哲学者なんです。孤独だから、その人が消えたらもうその店は終わってしまう」。
「ラーメン屋=宗教家、カレー屋=哲学者」。なるほどですねぇ。私がこれまで拝見したカレー屋さん(その多くは「カリー」と表記)にも、孤高の雰囲気を醸し出す”インド哲学”っぽい方が少なからずいました。福岡界わいの”カリーおたく”には知られた存在のスパイス職人・Tさんのお店では、お勘定のたんび、「もっと修行しときます」と言われ、面食らいました。実際、しばらく店閉めてほんとに修行に出たりして、ストイックでした。
Tさん以外にも、とにかくシャイで無口な人、ミュージシャンとかデザイナー風のアートっぽい人、やたら不機嫌で気難しい人など、とても商売人とは思えない店主さんたちが、黙々と「己の味」を追求してる姿が思い出されます。
彼ら彼女らは、自分に厳しい「求道者」です。とにかく、「自分が」納得のいくカレーを作り、供することに全身全霊打ち込みます。お金を儲けて良い暮らしをしたいとか、ましてや他の人に伝授してお店をあちこちに出して有名になりたい、などとは考えません。もっと言えば、お客さんが「おいしい、美味しい」と食べたとしても、自らが良いと思わなければうれしくないくらいの人たちだ、とすら思います(かなり、私の偏った思い込みで書いてるところはあります)。真実を求め、永遠の旅を続ける哲学者たるゆえんでしょう。なので、お店を続けることが最終目的ではないのでしょう。
本職から怒られるかもしれませんが、「カレーという料理は、我流でも相当うまく作れることがある」と私は思います。自身、小学生の時から長年カレー作っていて、何回か、鶏ガラでだしを取り、数種類のスパイスを調合して本格的風に挑戦しました。これが、びっくりするくらいよく出来ていて、2杯も3杯もおかわりしたことがありました。まあ、毎回同じように作れるかどうかが、プロとアマの差ですが。
一方で、ラーメンはお店で修行しないと、一定のレベルに達するのは難しいんじゃないでしょうか。うちの父も半年間、地元の腕利きに弟子入り、教えを乞いました。たまに、人気店の店主で「独学です」と言われている人を見ますが、それはすごいセンスと努力の賜物でしょう。
まあ、うちの父も店で見せる表面の穏やかさとは裏腹に気性が激しく頑固でしたが、ラーメン屋さんにも偏屈さを隠さない職人タイプの方も少なくはないでしょう。しかし、冒頭に書いたような、お店を沢山出して一大事業として切り回している方々は、もちろん違います。旨いラーメンを追求することはもちろんですが、それがかなって繁盛店になったら、「せっかくのこの味を広めたい、弟子も作りたい」という前向きな気持ちになるのでしょう。カリスマ的な社長に弟子たちが心酔、ラーメン道の修得に励む姿は、さながら素晴らしい経典に感動して教祖と旅を共にする信者のごとくです。
釈迦が編み出した仏教が様々な宗派を生み出し、インド、中国、日本など各地に広まっていったように、ラーメン屋もドンドン枝分かれし、日本全国、今や世界各国にまで進出してます。
大きなラーメンチェーンでなくても、親父さんがコツコツやっている名店の味を絶やしたくない、と子どもさんなどの一族、それが難しければ、常連さんが習って継いだみたいな話もちょいちょい聞きます。
全くないわけではないけれど、カレー店は比較的それが少ない。私としてはそれがすごく残念です。
福岡市内で私が大好きなカレー店が2店、もう長いこと店を開けてません。ちらほらもう完全閉店の噂もあるようです。新しいお店も次々に出来てるとはいえ、懐かしい味がもういただけないのか、と思うと悔しいかぎりです。
というわけで、今回はほとんどカレーの話でした。
(つづく)