私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
「おばあちゃん、忌歌(いみうた)って知ってる?」
ある小説で忌歌のことを知った私は祖母に尋ねた。
「歌っちゃいけない歌のことだね。おばあちゃんが子どもの頃に聞いたことがあるよ」
祖母が七歳の春、村の子どもたち五、六人で花を摘んだり魚を取ったりして遊んでいた。
そうしているうちに一人が歌いだした。
それをきっかけに合唱が始まり、皆でいろんな歌を歌った。
そのうち知ってる歌は歌いつくしたので、自分で作った歌を歌おうということになった。
しかし即興で作るのは難しく、なかなかちゃんとした歌にならない。
すると突然、九歳になる女の子のNちゃんが歌い出した。
「○○○○○○○○あらため やんばもござろう ○○○○つうかめ」
意味の分からない言葉と不思議な節回しが耳に残った。
「Nちゃん、いま作ったの?」と思わず祖母は聞いた。
「ううん。前にうちのおばあさんが歌っていた歌だよ」
「何て言う歌? どんな意味?」
「知らない。聞こうと思ってたんだけどおばあさん死んじゃった」
そんな話をしているうちに陽が暮れてきたので、皆家に帰っていった。
Nちゃんはその歌をずっと歌いながら帰っていったが家には戻らなかった。
翌日から村中総出で山狩りしたがどこにもおらず、ただ草履だけが池の端で見つかった。
「あとから聞いたんだけど、Nちゃんの家に伝わる忌歌だったそうだよ。凶事が起こるので絶対に歌わないように気をつけているのに代々途切れること無く伝わっていること自体が恐ろしいね」
「今でもそんな歌あるのかな…」
「言葉にはいろんなものがこもるから、きっと…」
そう言うと祖母はいなくなったNちゃんに向けてか、お線香に火をつけた。
※実際には歌詞も聞いたのですが、万が一を考えて伏せ字にしています