コロナ禍も相まって、全国でも老舗商店街のシャッター化が深刻化する中、見事復活劇を遂げた商店街が福岡市にあります。70年以上の歴史を持つ吉塚商店街は、周辺に多い在住外国人と地域住民の交流・共生を目指すプロジェクトを2020年12月からスタート。「吉塚市場リトルアジアマーケット」としてリニューアルしました。 今回はライターの帆足 千恵さんが、アジアンレストランのオープンに、ミャンマーからお釈迦様を迎えるなど、誰もが安心して楽しめる商店街のトライを仕掛け人たちへのインタビューを交えレポートします。
地域の特徴を最大限に活かす!昔ながらの商店街に、まるで“アジア” のレストラン続々
福岡市の博多駅からひと駅、JR吉塚駅の東口から徒歩4分にある吉塚商店街は、終戦間もない1950年代ごろ、数軒のお店から始まり、1960年〜1970年の最盛期には150軒ほどになり、すれ違うのも大変なほどの賑わいがあったそう。 しかしながら、スーパーやコンビニなどの台頭から徐々に寂れていき、今では約35店舗に。シャッターをおろした店が目立つ商店街になっていました。
シャッターのいくつかには地域の学校の生徒などが画を描いています その流れを止めようと改革の先頭にたったのが、吉塚商店連合組合組合長(現・吉塚市場リトルアジアマーケット組合長)の河津善博さん。72年前に、河津さんの父親が、この商店街に「とり善」という店をかまえ、河津さん自身もこの商店街で生まれ育ったとのこと。 東京や福岡県外の方には「水たき料亭 博多華味鳥 (はかたはなみどり)」といったらご存知の方も多いかもしれません。 河津さんは、「華味鳥」ブランドで鳥料理の店を全国で展開するトリゼンホールディングス(福岡市)の代表であり、「ここが発祥の地、原点」という想いがあり、活性化に奔走をしています。
河津さん 「吉塚の周辺には、日本語学校や工場が多く、アジアからの留学生や技能実習生が多く住んでいます。自分の会社でも、ミャンマーやネパール、ベトナム、中国などの外国人に働いてもらっています。 30年前からミャンマーとつながりも深く、40回ほど渡航し、個人としても現地に学校を設立、孤児院への寄付など活動をしてきました。 この商店街の活性化といっしょに、コロナ禍で祖国に帰れず、職を失うなど不安を抱えながら生活する外国人に安心して暮らせる、地域の人と交流できる場を創ることができないか。思案の結果が『リトルアジア』構想だったのです。 経済産業省の「商店街活性化・観光消費創出事業」に採択され、7,000万円の総事業費のうち、約6割の補助金も出るようになりました。 知人に声をかけたりするなどして、12月1日のスタート時には、タイとミャンマー、中国、ベトナム、カンボジアに韓国の6カ国7店舗の飲食店を揃えました。」
「140年ほどの歴史がある銭湯をそのまま使ったミャンマー料理「チョウゼヤ」とタイ料理店「サワディーカップ」は、自分の会社で20年以上勤務するチョウゼヤくんに任せました。 彼は入社して養鶏から物流、飲食と自社のあらゆる分野を一から学び、日本人と結婚をし、今は東京・新宿で『博多華味鳥』と『博多鶏ソバ 華味鳥』という2店を経営しています。 吉塚の2店のオーナーとして、ミャンマー人の店長を指揮しています。ミャンマー料理店は珍しいから、九州各地から食べにきていただいています。全体の注文のうち8割と人気を集めていますね。 在住者の多いベトナム関連の店も人気です。昨年夏にオープンしたベトナム雑貨、食材のVimartに加え、福岡市東区にあったベトナム料理「ミスサイゴン」のオーナーに声をかけて、誘致しました。」
「来場者が使えるトイレもなかったからそれも整備し、市場で購入したものを食べることもできる広場・アジアンプラザを作って、外国人も含めて交流できるようにしました。 例えば、ラオスの人がここで母国語で話しながらコーヒーを飲み、ゆったりできるといいなと思って。」
「赤いエプロンやジャンパーをユニフォームとして着用し、一体となって事業に着手したのが12月1日。ここから活性化の序章が始まったという感じです。」
外国人との共生が観光の名物に!ミャンマーからお釈迦様が外国人の心の拠り所
リトルアジア構想とあわせて、10月から急ピッチにすすんだのが、ミャンマーからのお釈迦様を安置するプロジェクトです。
近くの西林寺の住職が外国人と対話する中『日本では私たちが手を合わせる場所が少ない』と言う声を聞き、河津さんに相談。河津さんはすぐにミャンマーに電話をかけ、オーダーから2週間で完成し、12月中旬には吉塚に届いたそうです。 河津さん 「吉塚周辺のアジアからの外国人は仏教徒が多いのですが、日本とスタイルが違って、1日に何度も手をあわせてお釈迦さまを拝むんですね。 どの国のお釈迦様にするか議論はありましたが、福岡市の姉妹都市・ミャンマーのヤンゴンに依頼して、座像で約2m重さ400kgの黄金のお釈迦様がやってきました。 ところが、安置する場所がない!2021年明けから御堂の工事が始まり、3月13日に開眼法要を行い『吉塚御堂』としてお披露目しました。当日は北九州市の門司からミャンマー人の僧侶もかけつけ、ミャンマーの留学生をはじめ100人が集まってくれました。 母国から離れて暮らしているけど、このお釈迦様が近くにあると思うと安心するというんですね。彼らの心の拠り所となり、お参りをされています。 構想スタートから約4ヶ月というスピードで完成に至りました。御堂の維持管理費への寄付金を募り、今後クラウドファウンディングもする予定です。 この3月13日が吉塚市場リトルアジアマーケットのグランドオープン、本格的なスタートです。」
復活の火を絶やさないために!走り続ける共生と活性化の道
アジアンレストランを目指して家族連れや若い人が徐々に増えてきたといいます。週末を中心にイベントやフェアも開催されています。 お釈迦さまの誕生日である4月8日前後の4日間で「はなまつり」と称して、各店のカレーを味わうカレーフェアを開催。 4月17日には、アジアンプラザで、カンボジアで孤児院を支援しているHOC(Hope of children)の岩田亮子さんらによるトークやコンサートのイベントが開かれていました。
常に賑わいを創出するイベント、次の構想が河津さんにはあるようです。
河津さん 「ここに出店したいという人も出てきているし、全国、地方のメディアからの取材も相次いでいます。コロナでなければもっと大々的にいろいろできるのですけどね。 地域の方も協力的だし、企画自体は面白いと自信を持っていますので、いずれもっと浸透し、さらにお客様も増えてくるはず。全国の商店街からの視察も増えてくるかな。今後もどんどん企画や改善をしていきますよ。 この市場には猫が20匹いるんです。猫好きの店主もいる。この猫を主役にしたまちづくりも考えています。 週末の土日はお客様が増えました。しかし、もともと市場だから日曜は休みのところも多いので、せっかく来てくださる方のために、出店などを考えています。 やはり市場は対面で『今日はこれが安いよ。おすすめだよ』と会話のやりとりをできるのが醍醐味。かつての賑わいが戻り、外国人の方々も寄って交流できる市場はまだまだこれからです。」
取材を終えて
仕掛け人に河津さんのお話を聞いていると、今回の商店街の復活は、今の地域の特徴を生かし、そこに共生したとこにあったのだと思います。 日本中、外国人が生活している地域はどんどん増えていますが、彼らの心情に寄り添い、交流し、拠り所を作ろうとしている市場はあまりないのではないでしょうか。 「福岡は外国人も暮らしやすい」というシンボルのような事例です。ここにくれば外国人のスタッフやイベントで、外国人と交流できる気がします。 アジアンレストランの食べ歩きもできる、それ以外にも店先でやりとりをしながら散策できるノスタルジックな市場は、新たな観光スポットとしても注目されるでしょう。 博多駅で2時間余裕の時間があれば、足をのばして「アジア」を感じてみませんか。 文=帆足 千恵
吉塚市場リトルアジアマーケット(旧吉塚商店街)
■住: 福岡市博多区吉塚1−20−3 ■TEL: 092-409-3209 ■HP: https://yoshiduka-yla.com/ @marche_yoshiduka @little_asia_market_nonofficial