明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」、多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。
幼稚園から小学1年生の間、TVの特撮番組で見た「百目」という妖怪に取り付かれて過ごした。
学校の帰り道、神社の森、夕陽に染まる里山…百目はどこにでもひそんでいた。
ギシリ…ギシリ…夜になると廊下をゆっくり近づいてくる。
部屋の前で足音は止まり障子がすっと動いたと思った瞬間、隣りで寝ていた祖母の声が聞こえた。
「大丈夫? ずいぶんうなされていたけど…」
「百目が来た!」
「百目が怖いんだね…じゃあ怖くなくなる話をしてあげよう。私のおばあさんから聞いた昔話」
そう言うと祖母は灯りを点けた。
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ある峠で旅人が消える変事が続いた。
いくら探してもまるで神隠しにあったように見つからなかった…ただ一体の目をくりぬかれた骸(むくろ)以外は。
百の目を持つ妖(あやかし)が目を取るのだと噂になり、峠に近づく者はいなくなった。
山を越えて近隣の村々に行かなければ暮らしが立ち行かない行商人や飛脚は大いに困った。
困りに困って村の神社に相談に行くと、神主はしばらく考えたあげくお札を焼き、その灰を小袋に入れ皆に渡した。
「もしその妖が出たらその灰をかけろ。さすれば目が潰れるからその隙に逃げればいい」
次の日から行商人たちはその灰を持ち、峠を越えて行った。
妖もなにか感じ取ったのか、姿を現さなかった。
ひと月くらい経ったある日、駕籠(かご)売りが山を越えようとしていた。
日暮れ前に峠を越えようと急いでいたが、突然底が抜けたような大雨が降り出し雷が鳴り始めたため山の小屋に逃げ込んだ。
火を起こし雨に濡れた駕籠を並べて乾かしていると、外から声がした。
「雨に降られて難儀しとるんじゃが、入ってもええかね?」
「ああ、ええよ」
「そらありがたい。ときにお前さん、神社の灰を持っとるなら少し分けてくれんかの」
「神社の灰ならいつも持っとるが…し、しもうた! 雨に濡れとる」
「ほう使えんのじゃな…なら入っていこうかの」
扉が開いた。
(こいつが百目じゃ! 灰を濡らしたばっかりにここで喰われるのか…)
駕籠売りは覚悟を決め目をつぶり頭をかかえていたが百目は入って来ん。
不思議に思っていると悔しそうな声が聞こえた。
「なんじゃこの目の数は! こんなところには居られん」
ゴウゴウと風が舞い、そして静かになった。
おそるおそる目を開けると妖は消えていた。
駕籠売りは無事に峠を越えることができた。
村に戻るとことの次第を神主に話した。
「なんで、化は逃げたんじゃろか? 目とはなんじゃろ?」
「お前さんが広げておった駕籠の目よ。自分より多いから敵わんと思ったんじゃろう。妖には妖の理屈があるんじゃな」
それから峠に百目が出ることはなかった。
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「百目の目が怖かったんだけど、そこが弱点でもあるんだね」
「怖くなくなった?」
「もう怖くないよ」
「じゃあそろそろ寝ようか」
「うん。おやすみ」
「はい。おやすみ」
祖母は灯りを消した。
チョコ太郎より
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