私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
小学1年生の秋。
台風が近づいていたので、家族みんな早めに床に就いた。
だんだん強くなるゴウゴウという風の音になかなか寝付けないでいると、隣りで横になっていた祖母も眠れなかったのか、船乗りだった叔父さんから聞いたという話を語り始めた。
「こんな夜だったのかもしれないね」
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叔父さんの家から少し離れた漁村に住む漁師のMさんは、結婚したばかりだった。
お嫁さんは優しくてよく働くと評判で家族みんな喜んでいた。
風の強いある朝早く、Mさんはいつも通り数人の仲間と出港した。
昼を過ぎる頃、風は強さを増し雨が交じり始めた。
みるみる空は黒く濁り、海との境も分からなくなった。
夜になったがMさんの舟は帰って来なかった。
翌日はさらにひどい吹き降りとなった。
村の者は皆心配したが、あまりに海が荒れているので舟も出せない。
お嫁さんは言葉もなく泣き続けていた。
そしてまた日が暮れた。
真夜中を過ぎる頃、心配したMさんのお母さんが部屋をのぞくとお嫁さんがいない。
家族を起こし家中を探したが、どこにもいない。
嵐の中、まさかと思って外を見ると浜の方に火が灯っている。
慌てて駆けつけると漁具小屋が燃えていて、側に松明を持ったお嫁さんが目を見開いたまま立っている。
声をかけても聞こえていないようで、これはただごとではないと思い家族を呼んで、お嫁さんを抱えるようにして連れ帰った。
村中が諦めかけていたが、翌朝浜に倒れているMさんたちが見つかった。
「沖に出ていたら突然ものすごい嵐になり、あっという間に舟がひっくり返ったんだ。それからずっと泳ぎ続けていたが真っ暗で星も見えず、どちらが陸か分からんでな…もう駄目かと思ったときに小さな火が見えたんだ。あの火のおかげで命拾いしたよ」
Mさんたちは数日寝ると元通り元気になり、燃えた小屋は皆でお金を出し合って立派なものを建て直した。
お嫁さんは小屋に火を着けたことも覚えていなかったが、それからも何度か神がかりになった。
そこで予言したことは見事に当たると評判だったが、不思議な事に数年後赤ちゃんが生まれるとその力はなくなったそうだ。