私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
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祖母が十二歳の時に金物屋のMさんが四十代半ばという若さで亡くなった。
通夜の席で祖母がお悔やみを伝えると、奥さんは熱に浮かされたようにぼそぼそと不思議な話を語りはじめた。
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一週間前、Mさんの家に、村では見かけたことのない薬売りが立ち寄った。
話をしているうちに二人とも囲碁好きだと分かり、さっそく打とうという事になった。
腕前は伯仲していてなかなか勝負がつかず、薬売りは泊まっていくことになった。
翌朝、薬売りは礼を述べ、そしてこう言った。
「あなたの蛤(はまぐり)の碁石は見事な品ですが、一つ擦り減っているのがありますね。私がお守り代わりにいつも持っている石がありますから差し上げましょう」
ふところから布に包んだ白い碁石を出すとMさんに渡し、去って行った。
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その晩、奥さんが寝ているとどこかから言い争う声がする。
声のする方へ進んでいくと座敷から聞こえるようだ
灯をつけると白黒の石を広げた碁盤を前にMさんが目を見開いて座っている。
慌てて揺さぶるとそのまま崩れ落ちた。
Mさんはこんこんと眠り続けた。
二日後にやっと意識が戻ったが家族の問いかけには答えず、誰もいないところを見上げて話したり笑ったりしていた。
それから数日、起き上がれなかったはずのMさんは碁石をぶちまけた座敷で亡くなっているのが見つかった。
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「亡くなった時もずっとこの石を握っていたんです。どこまで碁が好きなのか…」
一緒に聞いていたお坊さんは石を受け取るとまじまじと見て、供養するからと預かった。
「これは良くないものだ。蛤碁石ではない。骨じゃよ。人の…」
お坊さんは一緒にM家を出た祖母にそう言った。
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