私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
「四つ目犬(目の上に眉のような丸い斑点がある犬)を飼うと家族が死ぬ」
小学2年生の時、学校でこんな噂が流行った。
「おばあちゃん、そんなことってあるのかな?」
家に帰り着くなり祖母に尋ねた。
「私が子どもの頃もそういう噂はあったよ」
そう言うと祖母は語り始めた。
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祖母が六歳の頃、友達の詩織ちゃんと一緒にお使いに行った帰り、痩せた黒い犬が付いて来た。
二人とも生き物好きだったので追いつくまで待ち、頭をなでたりおやつの残りをやったりした。
すっかり気に入った詩織ちゃんは自分の家で飼うと言いだした。
「お前の名前は今日からクロだよ。クロ、おいで!」
まるで言葉が分かるかのように、犬はおとなしく付いて行った。
「四つ目犬じゃないか! 駄目だ駄目だ! そんな縁起の悪いモン絶対飼わんぞ!」
詩織ちゃんのお父さんはひと目見るなり吐き捨てるように言った。
「どうするの?」
「裏山につないでおいて後でご飯をあげる。ずっと私がクロの面倒みる」
二人は裏山の窪地に簡単な犬小屋を作るとクロをつないだ。
夜になると詩織ちゃんはこっそりご飯を持って行った。
翌朝、祖母と詩織ちゃんが見に行くとクロがいない。
半刻(約一時間)ほど探しまわったが見つからない。
「お父さんが駄目だって言ったのが伝わったのかな…」
しょんぼりしていると詩織ちゃんのお母さんが呼びに来た。
急いで家に戻るとクロが目をつぶって横になっている。
側では昨日と打って変わってお父さんが心配そうにしている。
「畑に行くんでかごを背負おうとした時、こいつがうなりながら近づいて来てな。鍬(くわ)で叩いたがひるまず、恐ろしい顔で飛びかかって来たんだ。『やられる!』そう思った時、俺じゃなくかごに食いついて振り回すと、中から見た事もないくらい太いまむしが二匹出てきてのう。それをこいつが噛まれながらも退治してくれたんだ…」
幸いなことに数日するとクロはけろっと元気になり、“恩人”として大切に飼われることになった。
特にお父さんからかわいがられ、畑仕事には必ず連れて行った。
詩織ちゃんの家族もクロもみんな長生きしたそうだ(鍬で打たれた後脚は少し曲がったままだったが)。
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「見た目だけで縁起が悪いとか言うのは間違いだね」
「噂なんてそんなもんだよ。いつの時代も」
祖母は笑いながらそう締めくくった。