ロン=ティボー国際音楽コンクールの覇者 快進撃を続けるピアニスト「亀井聖矢」に迫る

作年11月若手音楽家の登竜門ロン=ティボー国際音楽コンクールで優勝を果たした亀井聖矢さん。今年2023年には文化庁長官賞(国際芸術部門)、出光音楽賞を受賞するなど、音楽家として快進撃を続けています。
そして全国12会場で凱旋リサイタル・ツアーがいよいよスタート!
今回初の福岡公演となる亀井さんに自身のピアノについて、そして今後の展望をうかがいました。

6月2日アクロス福岡シンフォニーホールで開催されるリサイタルは即完売!の人気ぶり
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ピアノは物心ついた時から当たり前の存在

ピアノを始めたのは4歳のときです。
両親は音楽に全く関係のない世界の人達でしたが、母が少しピアノを習っていたようで、わが家に電子ピアノがありました。僕は幼い頃から外で遊ぶよりも鍵盤に触っていることの方が好きだったようで、それを見た母が習わせようと思ったみたいです。
僕自身は物心ついた時から既にピアノを弾いていたので、当たり前のように自分の中にある存在でした。

小学生の頃はサッカーもやっていました。
学校から帰るとピアノの練習を少しやってからサッカーのトレーニングに行っていたのですが、5年生くらいになるとピアノの練習時間が足りなくなってきたので、クラブを引退しました。
中学生になってからは卓球部に。顧問の先生がとてもやさしくて、練習をさぼっても怒らなかったからです。(笑) それに指を怪我する心配のないスポーツだったから。それなりに楽しんでいました。
昔はピアノの練習が好きだったわけではないけれど、辞めたいと思ったことはなかったですね。

自分の中でピアノの世界でやっていこうと言う自覚が出てきたのは大学一年生の時。
ピティナ(※1)と日本音楽コンクールで賞をいただいてからです。もちろん音楽大学に飛び級で入学したとか色々ありましたが、その時点ではこれで食べていくという覚悟はまだありませんでした。謎解き制作者になる道もあるかなと。(笑)
コンクールで結果を出すと、演奏の機会やコンサートのお話もいただけるようになり、それでやっと仕事としてやっていく自覚が芽生えましたように思います。
(※1 ピティナ:国内最大規模のコンクール)

本番は自分のやってきたことを信じて、ただ楽しむだけ

2022年はマリア・カナルス、ヴァン・クライバーン、ロン=ティボーと3つの国際コンクールを立て続けに受けたので、大変だったでしょう?とよく言われますが、もとはと言えばコロナ渦で2020年のコンクールが延期になり、たまたま重なったわけで、2019年から準備はしてきました。

当初は全て制覇してやろう!くらいの気合は持っていましたが(笑)、マリア・カナルスとヴァン・クライバーンがあったからこそ、11月のロン=ティボーの結果を出せたのだと今は思っています。

優勝するには何が足りなかったのか、うまくいかなかった現実にきちんと向き合うことが出来て、それらがロン=ティボーの道に繋がった。正直なところ課題曲など条件は全く異なるので練習は大変だったのですが、3つ受けてよかったです。

2022年11月ロン=ティボー国際音楽コンクール・ファイナルのシーン

自分が準備してきたこと、練習でやってきたことしか本番では出せません。だから技術的なことは徹底的に練習して仕上げておきます。本番中にそこに意識が向くことはありません。ミスタッチを気にすることよりも、本番ではいかに音楽に入り込むかが一番大事です。

最初に受けたマリア・カナルスの時は完璧に弾かなくてはということに囚われてしまい、音楽的には小さくなってしまったかもしれません。

とにかく技術的なことは練習で仕上げておき、本番は自分のやってきたことを信じてただ楽しむだけ。ロン=ティボーではそれが出来たように思っています。

僕はまだまだ若くて足りない部分ももちろん沢山あるのですが、前向きになれる迫力があるとか、聴いてくださった方にその時間を楽しんだ満足感・充実感のあるプラスのエネルギーを出していけるところが自分の良さかなと認識しています。
人生観とか経験から出てくる表現力の引き出しはこれから増やしていければと思います。

コンクールのファイナルの演奏をあらためて聴いてみると、我ながら粗い部分もありますが、その時その瞬間にホールで味わう熱気とエネルギーが会場全体を包み込み一体となって盛り上がれたことには達成感があります。これはもう「生」ならではですよね。
これからこの「強み」をさらに伸ばしつつ、繊細さ、渋みなどを深めていきたいと思っています。

好きな作曲家ですか?
今回のコンサート・ツアーのプログラムではないのですが、ラフマニノフ、プロコフィエフなどのコンチェルトが好きです。どちらも特に3番などはまさに傑作!
古典から積み重なっていた和声が拡大してとてもエモーショナルですし、且つ楽譜を読み込めば読み込むほどその緻密さに驚かされ様々な発見があります。いつか福岡でも聴いていただける機会があるといいなと思っています。

この秋からフランス・パリヘ留学

この春に桐朋学園大学を卒業しました。今回のツアーが終わったら夏にいくつかコンサートがありますが、秋にはフランス・パリへ留学する予定です。ぜひ指導を受けたいと思う先生がいて、今のところどのくらいの期間になるかは未定です。

以前にその先生にレッスンを受ける機会があって、リストの「ノルマの回想」を見ていただいたんですが、最初の1ページから解体されるように3時間ほどみっちり細かく直されて、結構衝撃でした。自分では結構弾けていると思っていたので。(苦笑)

先生は1つ1つの音に自分の意志を込めて音楽を創っていくことを教えてくださいました。もしそれがクリア出来たら、大きなステップアップになるし、次の世界が見えてくると感じました。自分の音楽の解像度が上がるとでもいえばいいのかな。

(c) Y.Higuchi

そしてパリは何度か訪れた際、ここで生活してみたいと思わせる雰囲気がありました。
先のことは本当にわかりません。すごく気に入ってしまい住み着いてしまうかもしれないし、やっぱり日本がいいと思うかも。(笑)
やりたいことは色々あって、作曲も好きで取り組んでいます。今は勉強してきたことや興味のあること、自分が想像できる領域までしか見えていないので、パリに住んだらまた違った世界に目覚めるかもしれません。そうして自分の将来にオリジナリティがどんどん備わっていけばいいなと考えています。

ちなみに僕は「謎解き」にハマっていまして、それを作る仕事にとても興味があります。ピアノとは全くジャンルが異なるので、どちらも極められたらいいな。(笑)
とは言え、先ず次の目標は2025年のショパン国際ピアノコンクールです。頑張ります!!!

ぜひ生のコンサートならではの体験を

TVを通してとか、様々な映像で断片的に僕の演奏を観たり聴いたりしてくださった方々もいらっしゃると思うのですが、やはり生のコンサートは全く違う世界で、そこでしか感じられない熱量があり、音の波動が直接伝わります。映像とか音源とは違う体験です。今回のコンサートは静と動のどちらもお楽しみいただけるプログラムを組みましたので、僕は是非それをみなさんに味わっていただきたいと思っています。

難しいことは何も考えず、ただ聞こえてくる音・曲の世界に浸ってそのエネルギーを感じていただければ嬉しいですね。 (談)

取材協力:ヤマハアーティストサービス東京

Text by 樋口洋子/ Photo by 小林 洋

※6月2日アクロス福岡シンフォニーホール公演は既に完売しています。

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※この記事内容は公開日時点での情報です。

著者情報

長年音楽・楽器業界で仕事をしてきました。わくわくドキドキと感動をお届けできるアーティストの情報をご紹介していきます。

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