「最近、物忘れがひどくなった気がします。 予防や改善法は?」と読者から質問。物忘れなのか認知症なのか、まずは検査をして調べます。須恵たかさき脳神経外科クリニック(福岡県篠栗町)の脳神経外科専門医、高崎勝幸先生が読者の質問に答えます。
【脳神経外科専門医】須恵たかさき脳神経外科クリニック 高崎勝幸先生
山口県出身。久留米大学医学部卒業。久留米大学病院脳神経外科病棟医長、済生会福岡総合病院脳神経外科部長などを経て2010 年「たかさき脳神経外科クリニック」院長。2019 年「須恵たかさき脳神経外科クリニック」開業。後遺症診療、リハビリなどを通じて地域医療へ情熱を注ぐ。
Q 最近、物忘れがひどくなった気がします。 予防や改善法は? [62 歳]
A 「何もしない生活」が一番のリスク。社会と繋がり、人と会話することで脳を働かせて
物忘れなのか認知症なのか、自分では分からず不安です
年齢を重ねることで物忘れが増える理由は、脳内を飛び交うアセチルコリンという神経伝達物質が年齢とともに減り、スムーズな情報伝達が行われなくなるからです。 もしも人間の平均寿命が120歳だったら、ほとんどの人が認知症になると言われ、スピードや程度の差はあるにせよ、「忘れる」ということは避けることができない加齢による変化です。 例えば、「電話がかかってきた。その内容を思い出せない」というのは物忘れですが、「電話がかかってきた出来事すら覚えていない」となると認知症です。認知症は海馬の働きが鈍くなるので、「新しい記憶から消えていく」という特徴があります。 例えば「昔、こんな遊びをした」という古い記憶の話はできても、「朝ごはんは何を食べた?」と新しい記憶を聞くと答えられないのです。また、計算が苦手になるので買い物で千円札や一万円札を使いがちになり、小銭が増える傾向も見られます。
診察はどのようなことを行いますか? 治療は薬を飲むだけなのでしょうか
認知症の診断は、まず神経学的検査や認知機能検査、さらに脳萎縮の程度をMRI画像で数値化し、認知症かそうでないかを判断します。認知症の治療にゴールはないので、家族と話し合い、最善と考えられる治療計画を立てます。 例えば、怒りっぽくなった患者には落ち着く薬を処方する、体の動きが鈍くなっている患者には、寝たきりにならないようリハビリをすすめるなどです。 物忘れは加齢によるものだけでなく、事故などの外傷、または脳梗塞などの後遺症である「高次脳機能害」として現れることもあります。元に戻ることはなくても放置せず、作業療法などを続けて脳に刺激を与えることが大切です。テレビ三昧で「何もしない」ことこそ、脳の衰えを加速させます。 また、「脳トレ」が推奨されていますが、黙々と本に向かうより誰かと会話をする方が、脳に刺激を与えます。趣味やボランティアなど社会との繋がりを持ち、気持ちも脳も活発に過ごすことが、一番の物忘れ予防法です。