加齢による聴力の低下と正しい補聴器の選び方を、じんのうち耳鼻咽喉科(福岡県那珂川市)の陣内進也先生に聞きました。
【耳鼻咽喉科専門医】じんのうち耳鼻咽喉科 陣内 進也 先生
1998 年 関西医科大学卒業。長崎大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科講師、医局長などを経て、2018 年「じんのうち耳鼻咽喉科」開業。多くの手術実績でも知られ、がんの早期発見はもちろん、いびき・無呼吸症候群の治療にも力を入れている。
気付いてますか? 認知症のリスクを高める聴力の低下
難聴の原因は加齢、環境、ストレスなど多岐に渡ります
聴覚とは「耳で音を集め、脳で聞いて物事を認識する」ことで、耳だけが機能しているわけではありません。年齢を重ねることで聞こえが悪くなるのは、内耳の「蝸牛(かぎゅう)」の中にある有毛細胞という音を感じ取る細胞が、加齢などによる変性で音を電気信号に変えられなくなり、脳に伝わりにくくなるためです。 個人差はありますが、50歳前後から人の聴力は低下し始め、聴力検査で30dB(デシベル)前後になると「難聴」と診断されます。このように、加齢によって聞こえが悪くなることを「老人性難聴」と呼び、比較的男性に多く見られます。この場合、投薬や外科的手術で聞こえを取り戻すことができないため、補聴器を使う必要があります。 工事現場や空港の滑走路など、大きな音が聞こえ続ける場所で耳を酷使し、有毛細胞がダメージを受けることで起こるのが、「騒音性難聴」。85dB以上の大きな音を、長期間聞くことで引き起こされます。近年は、コンサート会場またはヘッドホンなどを使って大音量で音楽を聞くことで、「音響性難聴」(ヘッドホン難聴)になる若者が増えています。 一方、女性に多いのが、低音が聞こえにくくなる「低音障害型感音難聴」。早めの受診と、ストレスや睡眠不足などを解消することで治るケースがほとんどですが、再発しやすい症状です。 この他にも、事故やスポーツなどで耳小骨がダメージを受けたり、鼓膜が破れたり、ウイルス性疾患や血流の低下など、難聴の原因は多岐に渡ります。どんな症状でも、いち早く受診しなければ手遅れになる恐れがあります。
聞こえをサポートする補聴器。調整の不備で諦めてしまう人も
さまざまな原因で起こる難聴や聴覚の不具合を調整し、聞こえをサポートするのが「補聴器」です。しかし、「補聴器をしていると老人のようで恥ずかしい」という古い認識や、専門の医療機関ではなく眼鏡店やデパートなどの販売店で購入し、調整がうまくいかないなどの理由から、「聞こえる生活」を諦めてしまうなどの問題を抱えています。 何年も聴力が低下していた状態の方が初めて補聴器を装用すると、まず「うるさい」「音が響いて気になる」と訴えられることがほとんどです。従来の補聴器診療では、そういった患者の声に対して販売店が補聴器の聞こえを弱く調整し、結局必要な音を出せず「補聴器を着けても聞こえない」という結果になることが多いようです。 しかし、当院のような補聴器外来のある医療機関なら、「補聴器適合判定医」と認定された医師と信頼できる「認定補聴器技能者」とで、聞こえをサポートする体制を整えられます。
「聞こえない補聴器」から、「医師と技師のチーム診療で昔の聞こえを取り戻す補聴器」へ
補聴器の調整を医学的に行える「補聴器適合判定医」
補聴器について相談する医師の資格には、「補聴器相談医」と「補聴器適合判定医」がありますが、相談医よりも判定医の方が取得するための講習時間・内容が多く、より専門的です。 純音聴力検査や特性測定だけではなく、音場補聴効果測定など、より詳細で多角的な検査が行える「補聴器適合検査」というものがありますが、これは「補聴器相談医」は行えず、厚生労働省主催の補聴器適合判定医師研修会を修了した、「補聴器適合判定医」の耳鼻科医が配置されている当院のような施設でなければできません。 そして、患者の心構えとして重要なのは、「眼鏡をかけることは、見えなかったものを見えるようにする〝矯正〞だが、補聴器は脳の〝リハビリ〞である」という認識を持つことです。 今まで聞こえにくい世界にいた人が、急に音が間近に聞こえるようになると、それが雑音に感じるのは当然です。しかし、やがてその不快感にも脳が慣れ、健聴者の感覚に近くなります。調整のため補聴器を貸し出して2週間ごとに通院していただき、聞こえの状況を問診しながら補聴器の調整を1ヵ月以上続けることで、目標の音質を目指していきます。聞こえることで気持ちが晴れ、元気になる方がとても多いですね。 年齢のせいだとあきらめず、専門家と「ワンチーム」で聞こえを取り戻しましょう。