人間の思考・記憶の中枢であり、身体を司る脳と神経障害について、あだち脳神経外科クリニック(福岡県糸島市)の脳神経外科専門医・安達直人先生に聞きました。
【脳神経外科専門医】あだち脳神経外科クリニック 安達直人先生
広島県出身。山口大学医学部・大学院卒業。スイス・チューリッヒ大学病院客員医師、厚生労働省保険局特別医療指導監査官など、脳のスペシャリストとして培った経験を生かし、2015 年「あだち脳神経外科クリニック」開業。
内部が見えない臓器だからこそ、可視化できるMRI検査を
原因が分からない違和感。まずは「脳を見る」検査を
脳は思考や記憶を司るだけではなく、身体の隅々にまで伸びる神経から伝達された匂いや味、音、光などの電気刺激を受けて、嗅覚や味覚、聴覚、視覚などの「感覚」として理解します。「痛い」という感覚も、神経から伝達された刺激を脳が痛みとして感じることで生じるもの。特に、四肢の先端の神経は非常に発達しており、触ったら危ないもの、熱い、冷たいなどを感知し、瞬時に脳に伝えます。 ところが、特に危険なものを触れたり感じたりしていないのに、手足がしびれたり手足が動かしにくい、めまいがするなど、いつもと違う感覚がある時は、神経や脳などに不具合が起こっているサインかもしれません。 例えば、脳の血流が滞ることで起こる、もの忘れのような軽度な症状だけでなく、頭部外傷や脳に発生した腫瘍などの影響で、脳梗塞の前兆に似た症状が現れるケースもあります。また、神経細胞の変性によるアルツハイマー病やパーキンソン病の発症、細菌やウイルス感染、その他の炎症を引き起こす物質によって起こる脳炎など、脳や神経の不具合から起こる違和感の原因はさまざまです。 このように、不調は感じるけれど「どこに行けばいいのか分からない」という方が大変多く、しびれは整形外科、めまいは耳鼻科など、自己判断で受診する診療科を決めがちです。今まで感じたことのない激しい痛みなど、緊急を要する症状ではない限り原因が分からない違和感なら、まず脳の不具合を疑い、脳神経外科を受診することが大切です。
進化し続けるMRI。4D映像で脳内の診断が可能に
脳の疾患は目では見えないだけに、自己判断は不可能です。そこで、MRI検査によって「脳の中を可視化」することで、より正確な診断ができるようにするのです。MRI(Magnetic Resonance Imag ing)とは、強磁場を起こし体の中の情報を映像化する検査機器で、「痛みのない検査」が行えます。 当クリニックでは、「1.5T(テスラ)デジタルMRI装置」での検査を行っています。この機器は、MR信号をデジタル処理し、より解像度を高めることで、的確に脳内を診察することが可能です。小規模クリニックではほとんど導入されておらず、モニターに映し出されるリアルな脳や神経、血管の3D映像に多くの患者が驚かれます。 今後、当院のMRI検査は、1.5Tから3.0Tへと、さらに進化していくでしょう。3.0Tの上は研究用の機器しかないという、現状では業界最高クラスの装置です。 一般的なMRIの撮影では、患者が何十分も動かずにいることが必要ですが、3.0Tになれば少しくらいの動きは自動補正され、5分ほどですべての検査が可能になります。じっとしていられない幼児や、認知症で動きをコントロールしにくいお年寄りにもやさしい検査です。さらに大幅に向上した解像度でより細かな診察ができます。 例えばCTのパフォーマンスを自転車とすると、小規模クリニックにある低磁場MRIは軽自動車、この3.0Tは高級外車と言えるでしょう。当クリニックではより正確で素早い診断のため、現状の1.5Tから3.0Tへの転換を考えています。
脳を守るために、高性能MRIによる脳ドックと遺伝子ドックで的確な診断を
病気のリスクを知ることも健康管理、自己管理のひとつ
さまざまな検査をしておくことで、自分が将来的にどのような病気になるかを予測できるだけでなく、疾患の早期発見にもつながります。 代表的なものは「脳ドック」で、3.0Tの威力を駆使した短時間+高解像度な検査が可能。「MRIドック」は全身を診ることができ、例えば乳がん検査も、マンモグラフィを使わずMRIで行えるようになりました。他にも、複数の医師による多重診断が可能な「遠隔診断」で多角的な診察を行ったり、「遺伝子ドック」で血液や唾液を検査すれば、認知症やがん、脳卒中などのリスクを予測したりできるので、家族歴があって不安という方が利用されています。 国が負担する医療費と高齢化を考えると、近い将来、自分のことは自分で守らねばならない時代が来ます。質の高い最先端技術と、自身の健康を考え行動することが、豊かな人生につながると考えています。