明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。
小学二年生のある夜、TVで日本の怪奇特集を見ていた。
人魚のミイラや幽霊画など各地に残る呪物がその謂れ(いわれ)とともに紹介される番組だった。
コマーシャルに入ったとき、一緒に見ていた祖母が
「私もお父さんから不思議な人形をもらったことがあるよ」と言う。
「その話聞きたい! 今も持っているの?」
「この番組を見終わってから話してあげる」
コマーシャルが終わり本編が始まったが、祖母の話が気になって仕方がなかった。
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仕事でK県に出かけていた祖母の父が帰って来た。
五日間の予定だったが二日遅れての帰宅だった。
「やれやれ、やっと帰れた。ほれ土産」
いろんな珍しいお土産に家族皆歓声を上げた。
祖母はかわいらしい犬の土人形をもらった。
とても気に入った祖母が感謝を伝えると、父は帰路に遭遇した不思議を語り始めた。
「実はその人形、二回買いに行ったのよ」
「二回?」
「うむ。帰りの汽車に乗る駅に半日ほど早く着いたので街を見て回ったんじゃ。そこの土産屋でこれを買うたんじゃ。駅に戻って弁当を買い、景色のいいところで食べようとぶらぶら山の方に行ってみた。半刻(約一時間)ほど登ると小さな滝に出たんで、そこで昼にしたんじゃ」
「お弁当は何?」
「梅干しの入った握り飯二つ。腹が膨れたんで眠くなって大けな岩の上に寝転ぶとウトウトしてな。『いかんいかん、このままじゃと本当に眠ってしまう』と起き上がって山を下ったんじゃ。駅に着いて忘れ物がないか確認すると、さっき買うた犬の人形がない。確かに鞄に入れたから落とすはずはないのに…と思ったが行った所をもう一度歩いてみた。街にはなかったので山に戻り滝まで行くとあの岩の上にちょこんと人形が座っている。狐につままれたような気がしたが、あって良かったと鞄に入れて駅に向かった」
「狐はいたの?」
「狐は…おらんかったな。山道を下っていると山菜採りのお婆さんに行き会うた。挨拶するとどこから来たか聞かれたんで、こうこうこうだとこれまでのいきさつを話した。するとお婆さんが妙なことを言うた」
「何て言ったの?」
「『あの滝で変なこたぁなかったか? あそこは妙な所での。誰もおらんのに女ん子(おなごんこ)の声を聞いたっちゅうもんは一人や二人じゃないわ』とな。儂(わし)は気になって滝に戻ってみたのよ」
「お父さん、不思議なこと好きだからね」
「おう、よう知っとるの! それであの岩にもう一度寝転んでみたんじゃが滝の音だけで声なんか聞こえやせん。しばらく待ったが何も起こらんので滝の方へ行ってみた。すると滝壺近くにやけに白い石があるのが目に入り拾い上げた。それがなんと…」
「なんと?」
「子どものな、顎の骨のようなんじゃよ。このままにはしとられんと思うて、風呂敷に包むと急いで山を下り駐在所に駆け込んだ。それからは大変じゃった。隣町から応援を呼んで皆で滝周辺を調べるとあちこちから他の骨のかけらが見つかった。調べた結果、十五年前に神隠しにおうた千代っちゅう子じゃと分かった。事件かどうかまでは分からんかったがな。行きがかり上、それに付き合って戻りが二日も遅れてしもうた」
「人形を二回買ったのは?」
「おう、そうそう。その千代っちゅう子が人形を欲しがったような気がしてならんでな。葬る時に一緒に入れてもらうよう頼んで預けたんじゃ。それでもう一回買いに行ったんじゃよ」
「この人形、千代さんとおそろいなんだ…大事にするね」
その人形は祖母の宝物になった。
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「千代ちゃんは見つけてほしかったんだろうね…今もその人形あるの?」
「ちょっと待ってて」
そう言うと祖母は自分の部屋に行き、人形を持って戻ってきた。
それは愛嬌のある表情をした素朴な犬の土人形だった。
チョコ太郎より
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