長女が幼稚園に入ったばかりの頃の話です。長女のためにと私の両親が買ってくれたひな人形は三段飾り。おだいりさまとおひなさま、三人官女が付いています。長女は「きれいだね。かわいいね」と、毎日うっとりと眺めていました。でも、やんちゃな長女にとって、ひな人形はただの飾りでは終わらなかったのです。
何かがおかしい？ わが家に飾ったひな人形
ひな人形って、意外と小物が多いですよね。おだいりさまの冠やしゃく、三人官女の酒器、たんすや花など、まるでミニチュアを飾っているようで、大人の私でも飾る時はワクワクします。
折しも3歳といえば、人形遊びの大好きなお年頃。長女が気にならないわけがありません。最初は指をさしながら、長女は
「これは何？」
「きれいだね」
「かわいいね」と言っていました。
ある日、ふと、ひな人形をよく見てみると、ちょっとだけ小物が動いていることに気付きました。「ん？ これ、こんなところにあったっけ？」と、不思議に思いながらも気のせいかなと、そのままにしました。
そんな怪現象は、日に日にエスカレート。 ある日は、おひなさまの持っている扇が閉じられていたり、桃の花が全て抜き取られていたり…。またある日は、飾ってあったひし餅がかじられ、ひな壇に長女のお気に入りの人形が並んでいる時もありました。
それでも、「害がなければいいか」と思っていたのですが… 気が付くと、ぼんぼりが片方折れている！ 「オーマイゴーッド！ これはまずい」 とはいえ、三段飾りのひな人形を触れられない場所に置くわけにもいかず、長女に
「ひな人形はおもちゃじゃないんだよ」と言い聞かせるも、分かっているのかいないのか…。
でも、今日はどこが動いているのかな？ と夫婦のちょっとした楽しみになっていました。
ひな人形の顔が、みんなで左向け左！！
そんなある日、買い物から帰ってきた私が目にしたものは、人形の顔が全て左を向いたひな人形！！ おだいりさまもおひなさまも、三人官女まで、見事にみんなで左向け左！
思わず吹き出してしまった私、
「なんでこんなことに～？ というか、ひな人形の首って動くんだ！ いったい左に何があるの～？」と頭の中は！と？の嵐。
その異様なひな人形の姿に、怒る気にもなれなくて、笑いをこらえながら、そっと元に戻しました。もちろん、長女は悪びれる様子もなく、それを面白そうに見ていました。 「長女よ。なかなかいいセンスをしているじゃないか。」 そして次の日、私は見てしまったのです。
ひな壇によじ登り、おひなさまの頭を取っている長女の姿を！ 「いやいやいや、ひな人形は手袋をして慎重に触るものだよ？ それをそんなわしづかみして…」
私は
「現行犯！ 確保だ！」と長女を捕まえました。もう笑うしかありません。
「ひな人形は着せ替え人形ではないんだよ。せめて頭は取らないでね！」と初めて強めに叱りました。
あれから10年、長女は中学生になり、もうひな人形にいたずらすることもなく、一緒に飾りつけを手伝ってくれます。 あの時の、左を向いたひな人形とそれを面白そうに見ていた娘の顔。今でも思い出すと、つい笑ってしまう私なのでした。
（ファンファン福岡公式ライター／おきょうさん）
