福岡県三井郡の酒蔵、みいの寿(みいのことぶき)。
筑後川に注ぐ小石原川の清流沿い、のどかな美田に広がる筑後平野の中に、蔵元を構えています。こちらの酒造といえば、空前のバスケブームを巻き起こした「SLAM DUNK(スラムダンク)」に登場する、人気キャラクター「三井寿(みつい ひさし)」の由来ともなった日本酒「三井の寿」。
「0杯が1杯になったらいい」
多くの方がおいしい日本酒と出会うことを願う、三井の寿の杜氏:井上 宰継(いのうえ ただつぐ)さんに今回はお話を伺いました。
映画「SLAM DUNK」の公開を受けて
2022年の冬に映画「THE FIRST SLAM DUNK」が公開されました。公開後、「三井の寿」の反響はいかがでしょうか?
「三井の寿」というお酒自体は光栄なことに元々売れていた商品でしたが、公開後の反響はすごかったです。中国の取引先には何十倍もの注文が入りましたし、国内での売上も含めると引き合いは4〜5倍にも増えています。
国内での大きな転機になったのは、映画公開後に朝の情報番組で三井の寿を取り上げていただいたことです。この放送をきっかけに、三井の寿について知っていただいた人も多かったようですね。
その後、Twitterのトレンドに入り、Yahooのニュースにも取り上げてもらって。
ネットの情報拡散力には驚きました。その後、さらに勢いがついて、全国系列のテレビ番組に5つ出演しました。
海外からの反響の方はいかがですか?
とくに韓国からの反響が大きかったですね。ここにきて急に韓国で売上が伸びたのも、三井寿という漢字が韓国国内で認識されたことが大きいと思います。というのも、今まで韓国で出版された『SLAM DUNK』は、すべてハングル表記だったのです。今回の映画化で「三井寿」という漢字が登場したことで、同じ名前のお酒があると、海外の方にも認知いただけました。
国内外からの反響は大きいのですが、生産数は限られています。そうなると、出荷数も制限されてきますので、手に入りにくくなってしまいます。
韓国や中国から、蔵元までこられた方もいらっしゃいました。ただ、蔵での直売も見学も受け入れておりませんので、急遽ホームページにその旨を記載させていただいたところです。
日本酒ブームに隠れた縮小傾向のマーケット
現在は海外だと、どちらの国と取引をされているんですか?
中国、台湾、シンガポール、タイ、韓国、香港などを中心に、現在10カ国と取引をしています。香港においては、コロナ禍で通販文化が発達して、とても伸びました。香港のドン・キホーテさんにも卸していますよ。ここ数年の流れでいえば、輸出量は増えている傾向にありますね。
それだけ海外のお客様から求められているということですよね。海外でも日本酒に馴染みが出てきたというか、日本酒ブームもありますよね。
ワイン、蒸留酒、ビールと比べると、日本酒ブームはまだまだなところがあります。数字でみるととても顕著に現れていまして。日本酒の2017年度の輸出額は約186億円に対して、フランスのワインの輸出額は1兆円を超えています。
実際、今囁かれている日本酒ブームというものは、日本食ブームに合わせて、日本酒を好む機会が増えたというところが妥当だと思いますね。和食屋さんや寿司屋さんでワインを楽しめるという、日本のワインブームのように、中華料理やイタリアン、フレンチにおいても日本酒が飲まれるようになってからが、本当の日本酒ブームが到来したといえるでしょう。
ワインと同じ土俵に立つくらいに、世界中の方々へ日本酒を飲んでもらうとなると、兆レベルにならないといけません。そうなれば、日本の方でも日本酒が飲めなくなるくらいに、日本酒が足りなくなってくると思います。
海外マーケットの可能性もある中で、国内マーケットで日本酒が足りなくなる可能性もあると。それは生産という側面の影響があるのでしょうか?
ありますね。足りないなら造ればいい話ではありますが、そんな簡単な話ではありません。
そもそも酒蔵の廃業は年々増えていて、福岡の酒蔵だけでもこの25年の間で20蔵近くが廃業しているんです。1年に1蔵、福岡で廃業しているとしたら、全国で考えるともっと多いでしょうね。
そうなると、生産数も限られてくるし、希少性も変わってきます。
さらに、海外の方は、日本で売れているお酒を飲みたいという傾向があるんです。うちの場合でいうと、古酒が今年に入ってから急激に伸びています。その古酒というのは、10年くらい熟成させたお酒なのですが、伸びているからと言って急に造って出せるものでもありません。何が急に売れるかもわからない中で、限られた数の生産になってしまいます。
数年前と比べれば日本酒の輸出量は増えていて、伸びていると捉えられがちですが、その裏側には縮小傾向の日本酒マーケットの実態があるんです。
「0杯を1杯」にするために
縮小傾向といえども、今回の映画化で改めて注目されたことで、より広い方に知っていただくことができましたよね。
それはあると思います。今まではラベルを見て売れている節がありましたが、今回で「三井の寿」という文字を読んで、「あそこの蔵だね」って気づいてくれるようになりました。それ以外のお酒も全体的に、知名度として上がったように感じます。
雑誌などでもこれまで掲載されることもありましたが、お酒を好きな人が読む雑誌や特集が多かったんです。その上で、満遍なく広く認知いただいたというのは、今までとは違う変化だと感じています。
井上さんとしては、より広い人に知ってほしいと。
私個人としては、三井の寿を知らない人に知ってほしいと思っていまして。0杯を1杯にするのがとても重要だと考えています。知らない人に知ってもらうためには、酒の会がいい手段なんですよ。
酒の会というのは、飲食店で、日本酒に合わせた料理のコースを仕立ててもらって、料理と一緒にお酒を楽しんでいただく会なんです。日本酒は好きなものを飲んでしまいがちで、大吟醸好きな方はそればかりを飲んでしまうんですよ。そういう方々に、純米や古酒といった色々な日本酒を飲んでいただく。
料理とペアリングすると、新しい出会いにもなるんですよ。
自分が好きなお酒とは異なる種類のお酒を美味しいと感じていただくことは、酒の会を実施する上でのやりがいとも言えるでしょう。それに今の時代、SNSが強い味方になってくれるんです。
仮に、酒の会に参加した10人がSNSに投稿してくれるとします。その投稿を10人ずつが見たら、10投稿×10人で100人の方に知っていただいて。その100人の方が同じことをしたら、さらに1000人。こうやって、繰り返していけば数年後には知名度がぐんと上がっていくんです。
どんな飲食店で酒の会を実施されているんですか?
結構色々なところで実施していますが、どこでもやるというわけではありません。三井の寿をグランドメニューに入れていただいているとか、応援いただいているところと実施しています。
戦略的な部分でいえば、1年で何回も同じ店でやらないというのが特徴かもしれません。予約がなかなかできないようなお店や毎年1回このお店で開催するという間隔で実施しています。日本酒もワインのように、同じ日本酒でも味が違うんです。年によって変わる美味しさや面白さを、酒の会で感じていただければと思っています。
おいしいお酒と出会ってほしい
日本酒の美味しさを広めるためにも、三井の寿の存在は良いフックになっていると思います。
きっかけって大事ですから。「三井の寿」というお酒も、スラムダンクが好きな方やアニメ好きな方に興味を持って飲んでもらえたらいいと思っていましたね。三井の寿には、イタリアンラベルシリーズもあるのですが、あえてワインのようなラベルにして、ワインを好きな方にも飲んでほしいと思っていたんです。
日本酒全体でいえば、ここ十数年の間で、より日本酒が飲まれるようになったのは、東日本大震災後だと考えていまして。震災後、東北のお酒を飲んで応援しようという動きがあって、おいしい東北の日本酒を飲んで、日本酒の美味しさに目覚めた方が多いんじゃないかなと。
おいしいお酒と出会うきっかけがあるかないかというのは、すごく重要な部分だと思いますね。
では最後に、今後の展望についてお聞かせください。
ちょっとずつ変化をつけていくことを、恐れたくないですね。大きな変化はつけなくても、ちょっと変えるだけで何事も変わっていきます。ただ、この「ちょっとのこと」を変えるのって、意外に難しいんですよ。
一般的には、売上を追求する経営者と、創造的な酒造りをする杜氏は別々の存在です。面白い商品を造りたいと思っても、売上やコストの面で制約されている杜氏も多いと思います。しかし、三井の寿では私が経営者と杜氏の両方を兼任しています。そのため、商品開発もスムーズに進めることができ、設備投資もやりやすい。
良質なお酒を造り出すという前提のもと、今後も多くの人々に美味しいお酒を届けたいですし、それを実現するための方法を模索し続けたいと思っています。
「BARIYOKA-ばりよか-」について
「三井の寿」のホームページを制作したのは福岡のホームページ制作会社・ラシンです。今回、「三井の寿」はラシンの「制作費0円・月額9,800円で更新まで可能な、ばりよかホームページ」を活用しました。
商品を選ぶとき、あるいは就職先を選ぶときでも、必ずといっていいほどネットを検索し、情報収集するのが現代です。ネット社会でホームページを持つのは販売でも採用でも不可欠です。ですが、多くの中小企業にとっては「制作費が不透明」「誰に頼んだら良いかわからない」「初期費用が数十万と高額で払えない」「作っても更新ができる社員がいない」という課題がありました。
これらを全て解決するのが「ばりよか」です。ふくおかフィナンシャルグループと提携するなど、今、人気を博しています。