着うた、電池パック、赤外線… 平成を生きた世代にとって、懐かしすぎる言葉たち。そして、恋人との通話専用に「カップル携帯」なるものがありました。ただこれが、別れたあとに予期せぬ揉め事になることも。私の経験をお話しします。
「仲がいいカップルの証」
大学に入って付き合いだしたNは、アイスホッケー部の選手と私はマネージャーという関係でした。自分に甘く、お金にだらしないところがあった彼。
「やめた」と言っていたタバコをコソコソ吸っていたり、部費を滞納した挙げ句、母親に水増しして肩代わりしてもらったり…。私の友人からは、あまりよく思われていませんでしたが、試合になると真面目な顔つきに変わるところに惹かれていました。
当時は、まだLINEもスマホもなかった時代。メールより電話派のNは、突然高額になった携帯の通話料を、母親から怒鳴られてしまいました。これを聞いた友人から
「電話代を気にせずに話ができる。お似合いな2人は絶対に持ったほうがいい!」と助言を受け、Nがカップル携帯の契約を提案してきました。
私たちが選んだのは「家族割」です。「親子で通話無料」のシステムを利用し、Nが契約した2台のうち、1台分の料金を私が毎月渡すという形でした。「おそろい」「専用」という言葉がよっぽどうれしかったのか、ガサツな性格とは対照的に大切に扱っていた彼が印象的でした。
別れ際は、友人も絶賛する男前っぷり!
それから1年少しが経ち… 些細なケンカをきっかけに、私から別れを切り出しました。必死で引き留めようとしていたNも、最後は納得し
「解約すると、違約金でプラス1万円かかる。残りの数ヶ月分は俺が払っておく」と、男らしくカップル携帯を引き取ってくれました。
これを友人に話すと
「N君、かっこいい! 見直した!」と絶賛でした。Nとはただのチームメイトに戻り、そのまま疎遠に…。卒業後、地元の銀行に就職したと、風の噂で聞いた程度でした。
久しぶりに連絡すると
Nと別れて4年後、私は付き合っていた彼氏と結婚することに。
新居への引っ越しのため片付けをしていると、マンガが数巻足りていないと気づきました。すっかり忘れていたのですが、Nに貸したままだったのです。
Nへの連絡はためらいましたが… マンガの作者が好きで、発売されているコミックは全て揃えていたので、代表作が5巻からしかないのは、あまりにも不自然だったのです。
とにかく、これから結婚する相手には気づかれたくない、Nにも新しい家の住所は教えたくない… と悩み、引っ越しまでに郵送してもらおうと考えました。
連絡先が変わっていないことを友人に確認し、
「久しぶり。貸していたマンガを送ってほしいのだけど…」と、Nにメールすると…
「お久しぶりです。こちらも借金を返してください」と返事が。ん? お金? 借りていたっけ?
「携帯代。別れてからの分、俺が“代わりに”払いました」とのこと。えー! そんなこと言っていなかったのに!?
その額、3万円。お金のなかった学生時代ならまだしも、4年も経ってわざわざ!?
さらに、それならマンガは郵送で、お金は振り込むのでと提案すると
「信用できません。会ってお金を返してください」と言うのです。もう、ドン引き。白々しい敬語にも、かなり腹が立ちました。
寒空の下での渋々の再会
とにかく早くこのやりとりを終わらせたい、マンガさえ受け取れれば… と、会うことに。相手が指定してきたのは、人通りの多い繁華街のど真ん中でした。
当日、2月の寒空の中、震えながら待っていた私。付き合っていたときと変わらず、数分遅れでやってきたN。
「はい」と、ぶっきらぼうにマンガを渡され、お金と交換すると、
「じゃ」と後ろを向いて歩き出すN。その間、わずか1分。
何とも言えない虚無感…。あんなにうれしそうにカップル携帯を契約していたのに…
「借金の取り立て」という最悪な状況ではあるものの、Nとの久しぶりの再会を少し楽しみにしていた私。
会ってみれば、お金に関する話はシビアになっていたなぁ、別れた途端に他人行儀になっていたなぁ、と、思い出すのは嫌だったことばかり…。これが「金の切れ目」というやつか! と、しみじみ思いました。
(ファンファン福岡公式ライター/ふわずみ みか)