娘が2歳のときのこと。主人と娘、義父母の5人で地元の花火大会へでかけました。大規模ではないものの、海で上がる花火を間近で見られるのが魅力です。しかし最初の花火が上がった瞬間、娘が絶望的な言葉を言い放ったのです。
夏だ、花火だ、準備は万端!
お祭りや花火といえば出店も楽しみのひとつですが、この花火大会は、会場スペースの関係で出店数が少なく毎年大行列になります。そのため、わが家は毎年食べ物を自前で持っていくことにしています。
焼そば、唐揚げ、フランクフルト、お菓子や果物、ジュースなど… 準備はとても大変ですが、「これも花火のため」と思えば頑張れます。
他にもレジャーシートや椅子を準備して、仕上げに娘に浴衣を着せると、もうヘトヘトでした。でも娘は、初めての花火でまさにお祭り気分でウキウキ。
「疲れても、花火のため…」そう、あのきれいな花火を見るためなら、どんなことだって頑張れるのです。
花火前の宴 気分はサイコー!
家から会場までは車で10分ほど。駐車場で荷物を降ろして観覧席までは、さらに歩いて15分ほどかかります。一緒に行った義母は少し足が悪いのですが、頑張って歩いてくれました。また、娘は浴衣がたいそう気に入った様子で上機嫌で会場に到着しました。
開始2時間前には席とりもできて、さあここからはお楽しみ! 宴のはじまりです。いつもは家で食べる焼そばも、外で食べると格別。写真を撮ったり、ゲームをしたり、知り合いに出くわしたり… 家族みんなが楽しんでいる姿を見ると「大変だったけど今年も来られてよかった」という気持ちでいっぱいになりました。
花火が上がった! 次の瞬間、娘の一言とは?
そしていよいよ、待ちに待った花火がドーンと目の前で上がりました。観客の拍手と大歓声に、私も「待ってました!」とばかりに空を見上げ大きく拍手していると… 近くで
「ギャー!」という泣き声が。
「え?」と思い、声がする方を見ると、なんと娘が耳をふさいでしゃがみ込み
「こわいっ、帰るーー!」と叫んでいたのです。
花火はまだ始まったばかり。ここで帰っては、今までの準備と苦労が水の泡です。
「花火、ドーンと上がってきれいだね。大きい音がするけど、ぜーんぜんこわくないんだよ」
「ほら、見て! 大きいお花みたい、キラキラしてる!」
主人と義両親も加勢し「とにかく大丈夫」と言ってきかせますが、娘は「帰る」の一点張りです。
涙をのんで花火大会を後に
家族による懸命の説得も虚しく、泣き声は大きくなるばかりで、
「これ以上ここにいるのはムリだ…」主人の言葉に、「うそでしょーーー!」と心の中で叫びました。
義両親も
「そうだね…」と観念した様子で片付けを始めました。「ここまでこぎつけるのに、どれだけ準備したと思っているのよぉ、泣きたいのはママの方だよぉぉ!」
私たちは、まわりの「どうした、この人たち?」という視線を感じながらその場を撤収し、人の流れに逆行しながら歩きはじめました。私は重い荷物を持ちながら、どっと疲れが出るような思いでしたが、娘が泣き止み元気になったので安心しました。
ときどき振り返りながら歩く私たちの背後で、花火はますます勢いを増していきました。来年の花火大会準備リストには「花火はこわくないことを教える、と加えよう」そう心に誓った夜でした。
(ファンファン福岡公式ライター / 柴田真千子)