續・祖母が語った不思議な話:その参拾漆(37)「函の中」

 明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズ。今回は前シリーズ弐拾伍話(25)「函」の後日譚です。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

 座敷に座った祖母が函(はこ)を紐で括(くく)っている。
 声をかけるが気づかないのか背中を見せたままだ。
 括り終えるとその函を持って立ち上がり、座敷の奥へ歩いていく。
 はっと思い、急いで追いかけた。
 次々と襖(ふすま)を開けるが祖母はどこにもいない…

 一年前の夏、こんな夢を見た。

 十年ほど前に亡くなった祖母が何かを伝えようとしているような気がして、目が覚めてからも心がぞわぞわした。

 それから数日後、遠方の知らない寺から電話がかかってきた。
 てっきり間違い電話かと思ったが、そうではなかった。
 電話の向こうの若い声は新しい住職で、寺を片付けていたら経蔵(きょうぞう)の奥から木の函が出てきた。
 一昨年に亡くなった先代の書き付けに函の事と祖母のと私の名前と電話番号が載っていたので連絡したとのことだった。
 うすうす想像はついていたが、その函がどんなものか聞いてみた。
 真っ黒に塗られた古い木の函で、上に何か札が貼ってあるが真っ黒になっていて読めないという。

 …ああ、あの函だ。間違いない。

 元々は親戚の蔵にあって、災いがあるので開けないようにとまず注意し、これまでの経緯を話した。
 
 「そうでしたか…開けてしまいました。札はほとんど剝がれていました…」
 少し沈黙があった後、住職はそう言った。
 「あ、開けちゃいましたか!」
 「はい。中には干からびた…」
 「いや、それ以上おっしゃらないでください。知らないほうが良さそうです」

 また少しの沈黙の後、「お焚き上げをいたしましょう」と住職は言った。
 何度も大丈夫ですかと聞いたが任せてくださいと言うので「お願いします」と電話を切った。

 一年が経った先日ふと思い立ってあのお寺に電話してみた。
 住職を呼んでもらったが一年前話した人とは違う太い声だった。
 聞くと半年前に呼ばれて来た新しい住職だという。
 「先の住職は私が来たときにはもう神経をやられてましてな、妙な事ばかり言うので皆困っておりました…結局これ以上務まらんと還俗させましたがそのまま入院…今も病院の中でしてな」
 「そうでしたか…早く回復なさることをお祈りいたします。話は変わりますが、そちらに預かっていただいている函があるのですが…今はどうなっているか分かりますか?」
 「あの函はそちらさんからの預かりものでしたか! あれは大変なものですな。私が封じて人目につかんところに隠しました。まずは今のままが良かろうと思います」
 「ありがとうございます! とんでもないものを預かっていただき申し訳ありません」
 「なんのなんの。これが務めですからな」と住職はからから笑った。

 正直に言おう。
 函の中に何が入っているのかずっと気になっている。
 いつか知る日がくるのだろうか?

チョコ太郎より

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※この記事内容は公開日時点での情報です。

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