出産にはドラマがありますよね。私達夫婦は、ある食べ物を食べるたび、長女の出産を思い出します。出産は夜中になり、私は眠気と戦っていました。その間、夫は別の匂いとも戦っていたのです…。
破水して病院へ!
私は大阪で里帰り出産をしました。夫はお産の兆候が始まったら、当時住んでいた東京から新幹線で向かうことにしていました。しかし、予定日を1週間超過しても生まれる気配がなく、月曜日に促進剤で出産することに。
夫に報告すると
「金曜の仕事が終わったら、すぐ大阪に向かうよ」とのこと。
金曜の夜10時頃に私の実家に来てくれ、1カ月ぶりの再会が嬉しくて、2人で話し込んでしまいました。すると、じわっと下着が濡れる感覚が…。
病院に行くと
「破水している」とのこと。立ち合い出産希望の夫も、一緒に待機することになりました。
「お父さんが来るのを待っていたのかも!」などと話していると陣痛が来て、0時を越えた頃には分娩室へと向かいました。
分娩室に夫と取り残されて不安に
分娩室に入ってしばらくすると、私は5分おきの陣痛の合間に強烈な睡魔に襲われました。どうも陣痛が引いてしまったようで、夫の目には明らかに出産が進んでいないことがわかったそうです。
夜中の2時頃、私が
「眠いです」と医師に訴えると、
「寝ていいよ」とフランクな答えが返ってきました。その後、医師は看護師さんと何か話をしていました。
すると突然、医師が
「ちょっと旦那さんと2人でいてね」と、当たり前のような軽い口調で一言。私と夫は訳が分からず… オロオロしている間に、分娩室の中は私たち2人だけが取り残されてしまいました!
「先生たちどこいったの?! 赤ちゃん出てきたらどうしよう」と私は軽くパニックに。
「大丈夫だよ」と、夫がずっと横にいて、手を握って慰めてくれたのが心強かったです。
15分くらい経ったでしょうか。数回の眠気と陣痛を越えた頃、医師たちが戻ってきました。
医師は、またあの軽い口調で
「陣痛があまり来ていないので、促進剤を使いますね」と言いました。
どこで何してたの? と聞く余裕はなく、ただ説明に頷くしかありませんでした。
衝撃の事実が発覚!
促進剤を打った後は、とてもスピーディーに進み、朝7時に無事出産。子どもは、検査のために看護師さんが連れていき、私と夫は入院の個室へ戻りました。
私がベッドに横たわると、おもむろに夫が口を開きます。
「なぁ… カップ麺食べてたよな?」
「え、なんのこと?」私が言うと、夫は続けます。
「先生たち、途中でいなくなったじゃない? あの後、隣の部屋からいい匂いがしてたの、気付いてなかった?」
私は、ひどい眠気と痛みで全く分からなかったと伝えると、夫が情けない声で愚痴りだしました。
「そっかぁ… 隣からめちゃくちゃいい匂いがして、明らかにカップ麺の匂いでさ…
出産した人を目の前にして申し訳ないんだけど、俺も仕事して新幹線で移動してすごく眠い上に、匂いのせいでお腹まで空いてきて…。
横からずるずる麺をすする音もして、むちゃくちゃ眠いわ、お腹は空くわで… ほんと、気が狂いそうだったよ…」
普段は冷静沈着でクールな夫なのですが、心底疲れてうなだれた表情をしているのを見たのは初めてでした。
“出産ハイ”もあったのかもしれません。何だかおもしろくなって、私はゲラゲラと笑ってしまいました。
この後、すぐ両親に買いに走ってもらったカップ麺はとっても美味しかったです。医師の対応がありえない! と怒る人もいるかもしれませんが、私たちにとっては笑い話になっています。
(ファンファン福岡公式ライター / まゆり)