福岡市を拠点に活動する俳優の岸田麻佑さんが、演劇プロジェクト「きしPこくーん」を立ち上げ、旗揚げ公演「冥土inシェアハウス」を 9月13日(水)〜17日(日)、ぽんプラザホール(福岡市博多区)で開きます。脚本は安藤亮司さん(劇団ウルトラマンション)が本公演のために書き下ろし、演出は尾崎真一さん(同)が担当する死後の世界を舞台にしたハートフルコメディとなっています。稽古場で岸田さんと主演の原直子さんに話を聞いてきました。
福岡に演劇の「場」を創りたい
岸田さんは2017年に結成された女性エンターテインメントユニット「トキヲイキル」の一人として舞台やライブに出演するほか東京などの劇団公演に客演するなど活動を続けてきました。さらにその経験を生かし、コロナ禍の2021年には福岡市で自身初のプロデュース公演「ほぼ、コドモ―コドモ以上オトナ未満のパラダイス―」(作・演出:ヨウ手嶋さん)を成功させました。東京でも活動する岸田さんは福岡は表現する場も俳優を知ってもらう場もまだまだ少ない現状を痛感。さらに長引くコロナ禍で福岡でなかなか公演ができずに劇団が解散や活動を休止したり、舞台俳優を辞める人も少なからず見てきたことから、「だったら自分が『場』を創り出そう」と今回プロジェクトを立ち上げたと言います。
今回、出演者の一部は公募しました。約20人が応募し、6人を選びました。「飛び抜けてお芝居が上手な人がいたわけではありませんでした。私と一緒に新しく作り上げたいという熱意を一つの基準にしました。また舞台は皆で作り上げるものなので、自分が目立てばいい、というわけではありません。協調性が大事です。一方で引いてばかりだとその人が舞台に立つ意味はありません」と選考の難しさを話します。
舞台のプロデュースはまだ2度目。「大変ですがゼロから一つずつ積み上がって形になっていくことに幸せを感じています」と岸田さん。脚本はかつて自身が出演した舞台の脚本が気に入ったことから安藤さんに依頼したと話します。「演劇を見るのが初めての人でも楽しめるように、ストーリーの理解しやすさと安藤さんが得意なコメディ要素を盛り込んで欲しいとリクエストしました。台本を最初に手にしたときはとてもうれしかったです」。
今回、自身も舞台に出演します。「(プロデューサーとして)外から作品を見ているのと俳優として中から見るのとでは温度感が違うこともあります。演者の感覚を自分も感じ取った方がいいと思いました」と岸田さんは話します。
盟友・原直子さんの「新たな魅力楽しんで」
強い思い入れを感じさせるプロジェクトの旗揚げ公演の主演には原直子さんを選びました。
岸田さんと原さんはアイドルグループ「LinQ」の1期生として出会って以来、現在のトキヲイキルまで12年に渡り苦楽を共にしてきました。
「失敗ができない旗揚げ公演だからこそ一番信頼できる原さんにお願いしました」と話す岸田さんは「それに加えて、ファンが思う『原直子像』や『原直子ブランド』を取っ払って、私が知っている『そうじゃない原直子』の面白さや魅力を引き出したかったんです」。脚本を依頼する際もこれまでの原さんをイメージした「当て書き」はしないでほしいと付け加えたそうです。
一方の原さんは「(岸田さんが初プロデュースした)2年前から何か力になりたいと思っていました」。トキヲイキルの舞台公演での主演はメンバー持ち回りが基本となっていますが、原さんは個人の仕事のスケジュールもあり、これまではなかなかフルで公演に参加することができず、主演は6年ぶり。「今回は色々な状況を考えると『ちょうど行ける!』というタイミングでした」。
稽古に入ってから「改めて主演は周囲の出演者に支えられていると感じています。みんながいい味を出し、それに伴っていい作品になっていっています」と話します。
「トキヲイキルの作品では日常に近いセリフのやり取りがメインですが、今回は舞台上でのキャッチボール、特に普段出さないようなエネルギーのキャッチボールが多いのが特徴です。その点でも新しい私を引き出してもらっています。今回の舞台を演じ切ったら今までの『原直子の棚』とは違う新しい『シン・原直子の棚』ができるのではとの予感があります。今は日々自分の表現の幅が広がっていると感じています」と話した上で「今、役に少し引っ張られて開けっぴろげになっている自分自身がいますが、それも心地いいです」と笑顔を見せました。
受け皿に、さらに未来へ
岸田さんは「プロジェクトを今後も継続していく上で、旗揚げ公演のプレッシャーはとても大きいです」と話します。コロナ禍の影響もあり、福岡から東京へ活動の場を移す俳優仲間も増えていると話す岸田さんは「淋しい気持ちもありますが、東京での挑戦を応援したい。それと同時に『福岡でも舞台に出演したい』と思った時の受け皿にもなりたい」と話し、「そのためにも成果を出したいんです」と意気込んでいます。
また岸田さんと原さんはコロナ禍での「エンタメ不要論」の下、多くの演劇などが中止され、日々の生活の糧に不安を抱いた多くの人材がこの世界を去ったことを「悔しかった」と口をそろえ、「たとえばプロ野球のように出演者やスタッフが日々の経済的な心配から解放されて、プロとして舞台だけに打ち込める環境ができれば理想です」とし、同時に「観客の皆さんも野球観戦のような気軽さでお芝居を見ていただけるようになればいいなと思います。そうすれば今後似たような状況になっても、エンタメとしての演劇を守ことができるはずです」。
岸田さんは続けます。
「お芝居の良さ、楽しさ、奥深さを多くの人に知っていただき、私たちの考えへの共感の輪を個人のお客さんや企業さんなどに少しづつでも広げることが必要です」、「私たちは精一杯、新たな『場』を作りました。今後も作っていきたいと考えています。最初の一歩となる旗揚げ公演は心に響く作品に仕上がっています。最後のピースは観客の皆さんです。ホッコリした気持ちで劇場から帰っていただけると思いますので、ぜひ劇場に足をお運びください。そして私たちの夢を応援していただけるとうれしいです」とアピールしました。
詳しくは「トキヲイキル」公式サイトで。