NIJINIPPON(にじにっぽん)プロジェクト 障害者雇用支援月間特別対談Part2「障害だけでなく、人を見る。障害者雇用に大切なこと」

2023年1月に厚生労働省は企業の障害者の法定雇用率を2.3%から段階的に引き上げ、2026年に2.7%にすることを決めました。これからの障害者雇用に大切なことは?9月の障害者雇用支援月間にあたって、会社が成長し続けるためにはダイバーシティ(多様性)が欠かせないと考える福岡トランス代表取締役の小海寛氏と、冬季パラリンピック金メダリストで電通総研副所長の大日方邦子氏が語り合いました。

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知らなかった世界が広がる

大日方:これまでも障害のある方と関わる機会があったのですか?

小海:いえ、それが全くありませんでした。大谷さんとの偶然の出会いから学ぶことが多く、とてもありがたいですね。大日方さんは、特別支援学校ではなく一般の学校に通っていたと話されていましたが、子どもの頃から障害者の方と交流していたのでしょうか?

大日方:私も周りに障害のある方がいなかったんですよ。高校生のときにチェアスキーを始めたら、それまで知らなかった世界が広がっていました。車いすで生活する人、義足で生活する人などいろんな方がいて、こういう価値観や暮らし方があるんだなと驚きました。私自身、障害者についてステレオタイプな思い込みがあったのかもしれません。いつもものすごく頑張って、自分をいわゆる健常者に合わせようとしていたけれど、もっと自然体で障害のことを伝えていいんだとか、みんな自由に恋愛しているんだとか、スポーツを通じてちょっと先輩のロールモデルに出合えたことは幸運でした。

小海:障害のある方と交流が増えると、見える世界が変わりますね。

失敗を恐れずにチャレンジを

大日方:福岡トランスは、障害者雇用以外にも、「性的少数者(LGBTQ+)」や「持続可能な開発目標(SDGs)」などの取り組みも、小海さんが先頭に立って積極的に進めているそうですね。

小海:SDGsはハードルが高いイメージを持っていたのですが、しっかり話を聞くと、普段から考えていたことと重なっていました。「これはすでにできている」「これはやってみたい」という思いが出てきて、取り組みました。例えば、ダイバーシティについては、性別や年齢を問わず、マネジメントのスキルが高い人を管理職にして、適材適所で活躍できるようにしているところです。若い人でもどんどん起用して責任ある仕事を任せると、楽しんでやっています。失敗もあって当然です、私自身も失敗しながらやってきましたから。たとえ失敗しても、自分の信念や考えがあって進めた結果なら評価できるので、どんどんチャレンジしてほしいと伝えています。

大日方:それは、働く人にとって安心ですね。前任者と同じようにしなければいけない、失敗しちゃいけないと怖がらず、のびのび挑戦できる環境は理想的だと思います。

小海:今は一歩踏み出す勢いが必要で私がけん引していますが、踏み出した結果を受けて、後はみんなで進めてもらうつもりです。

障害の種別ではなく、人柄とスキルを見る

大日方:福岡トランスは、障害者雇用をどのように進める予定ですか?

小海:国の雇用率にとらわれた採用ではなく、わが社で働いて活躍する仲間を迎えて、その方が自立するきっかけにしたいです。どんな方でも働く楽しさや、やりがいを感じると、活躍したいと思うでしょうから。

大日方:本当に重要な視点です。企業の方から障害者雇用について相談を受けるとき、採用したい人のスキルや人柄ではなく、「どのような障害があるのか」という点を重視されるケースがあります。例えば、「知的障害がなくて、車いすに乗っていなくて、障害者手帳を持っている人がいたら紹介してほしい」などと要望されたことがあります。もちろん障害カテゴリーが気になることは分かりますが、どんな人にどんな仕事をしてほしいのかが先にきてほしいと思うんです。さらに非常に残念なのは、「むしろあまり働かなくてもいい」という方もいて。そんな職場に紹介したい人はいませんよね。それを理解してもらうために根気強くやり取りすることも大切だと思っています。

小海:企業が義務で数合わせを始めると、人が見えなくなるのでしょうね。

大日方:障害はひとつの個性なのに、「障害者」とひとくくりにしてしまうと、人が見えなくなってしまいます。例えば、障害者でなくても「能力はどうでもいいが、眼鏡をかけているからあなたを採用した」と言われたら、どう感じますか。もっと私のことを見てほしいと思いますよね。その点、小海さんは、大谷さんにしっかり向き合っているのが素晴らしいです。

小海:ありがとうございます。これからも人を見て採用し、その方に合う仕事をマッチングしたり、合う仕事をつくり出したりすることが楽しみです。もっと新たな価値が生まれていくと期待しています。

大日方:障害者雇用に楽しみや可能性を見いだされているのは、いいですね。一方で、ここが難しそうだと心配なことはありますか?

小海:ハードルを感じたのは、数合わせをしなければいけないと思っていたときで、今はそんな考えがないので難しさや不安は特にありません。

九州はパラスポーツが盛んであることを誇りに

大日方:具体的にはどんな方を求めていますか?

小海:SDGsの一環で耕作放棄地や食糧問題に関心があり、会社の近くで農業を始めました。近隣に特別支援学校や施設があるので、農業に関心のある方がいたら採用したいなとアプローチしています。

大日方:電通グループには、障害者の雇用を促進する特例子会社「電通そらり」があります。清掃などいろいろな仕事がありますが、農園で育てた野菜を食堂で販売したり、カフェでおいしいコーヒーを提供したりして、身近な存在で愛されています。

小海:あとは、スポーツでも文化的なことでも小さな趣味でも、プライベートで何か好きな活動をしている方と一緒に働きたいです。活動を応援することで私たちの世界も広がりますし、障害があってもなくても、社員には楽しく充実した人生を送ってほしいと願っています。

大日方:障害のある方も仲間として受け入れて、期待して応援することが本人の働きがいにつながり、職場も改善されるという好循環が生まれていて、あるべき企業の姿ですね。障害の有無にかかわらず、人を財産として雇用するというスタンスに筋が通っていて、本質だと膝を打ちました。

小海:国が示す数値目標ばかり気にすると人が見えなくなりがちですが、採用は決してゴールではありません。採用した方といかに高め合ってお互いにゴールを目指すかが重要ではないでしょうか。

大日方:そうですね。九州は、北九州の車いすバスケット、飯塚の車いすテニス、大分の車いすマラソンなどパラスポーツが盛んな地域で、いい環境が整っているんですよ。ぜひ誇りに思っていただきつつ、障害者雇用にもしっかり取り組んでほしいです。

プロフィール

大日方邦子(おびなた・くにこ)
電通総研 副所長
1972年東京生まれ。3歳の時に交通事故により負傷。右足切断、左足にも障害が残る。高校2年の時にチェアスキーと出会い、スキーヤーとして歩み始める。1998年長野パラリンピックで、冬季大会で日本人初となる金メダルをはじめ、合計10個のメダルを獲得。2010年に選手を引退後、競技団体役員や審議会委員など、主にスポーツ、ダイバーシティ&インクルージョン、教育に関わる分野で社会活動を行う。大学卒業後、日本放送協会(NHK)に勤務し、教育分野やパラリンピック報道にディレクターとしてかかわる。2007年より、株式会社電通PRコンサルティング、2022年1月より現職。

小海寛(こうみ・ひろし)
福岡トランス株式会社 代表取締役
1972年福岡県北九州市生まれ。2004年に福岡トランスへ入社。2009年より現職。趣味はトライアスロン、ロードバイク。

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