明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。
幼稚園から帰ったある秋の日。
実家の庭にある築山(つきやま)で遊んでいて妙なものを見つけた。
一番奥に設(しつら)えた大きな岩の下に小石が20個くらい左右に積んである。
不思議なのはそれが白い石と黒い石にきちんと分けられていることだった。
これは誰かに教えなければと、家に入ったが誰もいない。
仕方がないので隣りの家に飛び込むと、昼寝をしているケン坊を叩き起こし引っ張ってきた。
「これ見て! 来たらこんなになってたんだよ。変じゃない?」
ケン坊は寝ぼけ眼で見ていたが、視線を上に上げた途端大きく目を開き「うわぁ! いるいる!」と叫び走って帰って行った。
何だろうと見上げた瞬間、夥(おびただ)しい数の雀が飛び去って行った。
これは変だ! 何が起こっているのか調べなければ! …そう思ったがそこは幼稚園児、夕ご飯を食べながらTVで「ウルトラセブン」の最終回を見ているうちにすっかり忘れてしまった。
それから数年、小学校から帰ったある春の日。
飼犬のチロが築山に向かって唸っている。
まるで何か目に見えない侵入者を警戒しているようだった。
「よしよし」とチロの頭を撫でると久しぶりに築山に上がってみた。
鼬(いたち)や野鼠でも…と思ったが動くものはない。
突き当たりの大岩まで行った時、記憶の引き出しが開いた。
「そういえば昔、ここに色分けした小石が積んで…あっ! ある!」
そこには以前見たのと同じように白と黒の小石が積まれていた。
その夜、何か訳があって石を積んでいるのかと祖母に尋ねた。
「あら、てっきりあなたがやっているとばかり思っていたよ」
「え〜っ!? おばあちゃんじゃないの? じゃあ誰が…」
翌日、家族全員に聞いてみたが石の事は誰一人気付いてもいなかった。
こうなったら…と実験をすることにした。
築山に行くと積んであった小石の山を崩し、白黒を混ぜて放置した。
「これをこまめに観察していれば、きっと何か分かるはず!」…そう思ったがそこは小学生、夕ご飯を食べながらTVで新番組「仮面ライダー」を見ているうちにすっかり忘れてしまった。
それから数年、中学校から帰ったある冬の日。
築山でざわざわと何かが蠢(うごめ)いていた。
チロは…と見ると小屋の奥に入って顔だけこちらに向けている。
何だろうと築山に上がりかけるとすごい数の雀が飛び去った。
「なんか前にも同じような…あっ! 石!」
あった! そこにあった! 白と黒に分けられた小石の山が!
「これは祖母に伝えなければ!」…そう思ったがそこは中学生、夕ご飯を食べながらTVで「荒野の用心棒」を見ているうちにすっかり忘れてしまった。
それから十数年、久しぶりに実家に戻ったある夏の日。
築山の岩の下で飼猫のフクが昼寝をしていた。
「影になったところの土がひんやりしていて気持ちが良いんだろうな」と見ていると、むくっと起き上がり「ミャウミャウ」と鳴く。
こっちに来いってことかな? 築山に脚を向けた瞬間思い出した。
「石!」
たしかフクが寝ている辺りだ!
急いで上がると岩の下を見た。
…そこには白い石もクロい石もなかった。
この話を伝えると祖母が言った。
「あれから気をつけて見てたんだけど、ある時を境に石の不思議はなくなったのよ」
「ある時?」
「このコが家に来てから」
「このコ?」
「ミュウ」
いつの間にか側に来ていたフクが鳴いた。
チョコ太郎より
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