あなたは電車やバスなどで、周囲の人にしてもらった行動で心を打たれた経験はありますか? 私は勝手な思い込みで、助けてもらえないと思っていた人から優しくしてもらいました。今回は7年近く経っても忘れられないできごとを紹介します。
妊娠しながらの通勤
妊娠4カ月、つわりも落ち着いた時期の話です。
私は仕事のため電車通勤をしていました。当時住んでいた地域は、都内へのアクセスがよいため通勤時間の電車はかなりのラッシュで有名でした。妊娠してからは、電車の混み具合の様子をみて何本か見送っても平気なように早めに家を出ています。
その日もいつもと同じように、お腹に負担がかからないようにしつつ、お腹を守りながら電車に乗り込みました。
電車の中は今のところまだ余裕はあるものの、この先の駅は乗換駅で電車内が混むのは必須。周囲を見渡し、安全そうな車両の隅へと移動することに。これまでの経験で車両の隅であれば、そんなに強く押されることはなかったからです。
「ふぅー」と安心して、少し混んだ車内に目を向けてみると、ドア付近にスポーツバックを持った男子高校生が5~6人いるのが見えました。
これまでの経験で女子高校生や年上の女性の方が妊婦の私を気にかけてくれ、席を譲ってもらい助かったことがありました。とはいえ、自己責任で通勤ラッシュの時間に乗っていたので誰彼構わず「譲ってほしい」などの気持ちは全くありません。ただ、比較的男性は疲れているからなのか、気付かれず優先席を譲ってもらえたことがないので男性にあまり期待をしてなかったのです。
男子高校生を見ながら「混んできたら自分の身は自分で守らなきゃ」と、心の中で思っていました。
電車が混み始めたその時
次の駅に着いた時、降りる人と乗る人で電車内がグッと混雑してきました。
たまたま別で人身事故もあったようで、他の路線を利用していた人が流れてきたようです。普段より確実に多い人数が電車に無理やり乗り込んできました。
「あっ、これは結構キツイかも…」
勢いの強さと人の流れに押されながら、目の前の壁との距離がさらに近づき「なんとかお腹を守らなきゃ!」と目をつむって気を引き締めたときです。「あれ…? 全然押されない」
確実にくると思った人の波が来ないことを不思議に思い、扉の方に目をやると思いがけない光景が広がっていました。なんとあの男子高校生たちが、私の方へこれ以上人が来ないように間に壁になってくれていたんです。見てわかるくらい一生懸命に足を踏ん張ってくれていて、少しでもこちらにスペースがあるようにしてくれていました。
男子高校生たちは、どうやらカバンに付けていたマタニティマークと私がお腹を気にする姿、必死にお腹を守る姿を見ていたようです。
勝手に「話に夢中になっているし、きっと男子高校生だと妊婦を目にしてもそんなに気にしてない」と思っていた私は、「ごめんなさい」と同時に「ありがとう」の気持ちでいっぱいになりました。
男子高校生に感謝
15分間の満員電車を彼らのおかげで耐えられ、お腹への負担も最小限で済みました。
お礼を言おうとしましたが、電車内が落ち着く頃には高校生たちはすでに降りていて見失ってしまいました。高校の制服もはっきり覚えていたわけでもなく、探し出すのは難しいと判断した私。残念ながら、感謝とお礼を伝えることは出来ませんでした。
彼らがいなかったら、長時間お腹が圧迫されお腹の赤ちゃんの命は危なかったかもしれません。人の多さに気持ち悪くなって倒れていた可能性だってあります。
当時お腹にいた長男が6歳となった今でも忘れられない記憶です。
あの時は本当に助かりました。いまだに思い出して、彼らの優しさが嬉しかった気持ちが込み上げ涙が出てきます。
まだ息子は小さいですが、いつか彼らと同じくらいになった時に妊婦さんへの優しい気持ちを持ってほしいなと思います。
(ファンファン福岡公式ライター/吉田奈央)