NIJINIPPON(にじにっぽん)プロジェクト 2024年国際女性デーインタビュー「福岡で女性として生きていく」vol.1 Homeport 西﨑彩智さんインタビュー

 人種・国籍・宗教・性別・年齢・障害の有無に関係なく、すべての人が生きやすい社会をめざした活動が活発化しています。一人一人が個性を発揮し、多様な視点や論点をもつことが、未来の可能性につながるというDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)への関心を高め、1人でも多くの人が考えるきっかけをつくりたい。そういった思いで始動したのが、西から日本に虹をかける「NIJINIPPON(にじにっぽん)プロジェクト」。今回は、3月8日の国際女性デー(※)に合わせ、「福岡で女性として生きていく」をテーマに取材しました。第1回目はHomeportの西﨑彩智さんへのインタビューです。
※国際女性デー:1904年3月8日にアメリカ・ニューヨークで婦人参政権を求めたデモが起源となり、1975年に国連が3月8日を国際女性デー(International Women’s Day)と定めました。

離婚とHomeportの事業スタート

Q.今までのキャリアと、福岡との接点をお聞かせください。
西﨑:実は結婚をスタートしたのが福岡だったんです。専業主婦として2人の子どもを育てました。専業主婦を続けるつもりだったのですが、夫がリストラになったことがきっかけでヨガスタジオのアルバイトを始めました。もともと女性と話すのが好きだったことや、店長の席が空いたことから、しばらくして正社員で店長になりました。その後、夫とは離婚しました。夫の海外赴任や単身赴任を繰り返している中で、夫婦関係があまりうまくはいってなかったんです。私が出した条件は「ローン付でいいから家をください」ということでした。
 離婚した日に学校まで息子を迎えに行って、車の中で「ママとパパは離婚した」と言ったら、それまで何があっても泣かなかった息子が、初めてそこで号泣したんですよ。ただただ謝るしかない私に、息子から、「お願いごとがある」と。聞くと「友達を呼びたい」って。私が専業主婦だった頃は、いつも友達が来ていたんです。家事がすごく好きだったから、子どもたちがうちに来るのもいつでもオッケーでした。
 自分が仕事を始めて、忙しくなると、家の中が変わっているのが分かるんですよね。片づいていないとか、前は温かいご飯が出ていたはずなのに、つくりおきに代わってしまったとか。そういう雰囲気を子どもってすぐにキャッチするんですよね。それが、子どもの友達が家に来ることで、周りのママ友に伝わるのが嫌だったんです。でも、自分の見栄とかエゴで、中学生の子を孤独に我慢させてしまい、申し訳ないことをしたと思いました。ちょうど息子は中3で、部活も引退が決まっていたので、打ち上げを家でできるように片づけることにしました。
 そのときに子どもに言ったのが、「もうママは稼いでいかなきゃいけないから、1人で何もかもできないから、申し訳ないけど助けてください」ということです。子どもたちは、「分かった」と言ってくれました。結果的に2トントラック2台分、不要なものを全部捨てました。それまで、大してキャリアもない私が2人の子を育てられるのかなとか、もやもやしていたんですけど、わずかとはいえ仕事があるなと思ったら、吹っ切れた感覚がありました。「あ、もうこれでいいかな」と(笑)。
 その後、ママ友も家にきた時に、家の様子が変わっているから、「えっ、どうしたの?」という話になったので、離婚したことを伝えると、「いや、実はうちも…」とそこで初めて、それぞれのお宅にはそれぞれが抱えている課題があることを知りました。いろんな思いをしている主婦の人がいるんだなと思って。日本では家事・育児の面において、女性に負担がかかっています。家が片づいていないとき、「片づけの仕組み」がないので、片づけられない人たちが自分を責めている、そういう方に「片づけの仕組み」が役に立つのであれば、これが私がやるべきことなのかもしれない、と思ったんです。ありがたいことに、ヨガスタジオの店長をやっているときに、ヨガができない私を皆さんが慕って来てくださったのって、結局相談事だったんですね。家族のこととか、生活の相談が多かったので、「これなら答えられる」と思ってはじめたのが、実はこの仕事です。48歳になるタイミングで、個人事業主としてスタートしました。

Q.事業スタートから東京への進出までのことを教えてください。
西﨑:最初は、お客さまの家へ行って、片づけの仕組みを教えていました。でも、「次はここまで家族でやってください、ここまでできたら来ます」みたいに宿題を残していくことが多かったんです。私が行く時は、家族も積極的に協力して片づけてくれるけれど、普段はそんなことがなかったり、「家に来られるのは嫌だ」という方もいらっしゃったんで、教える場を私の家に変更をしたんです。受講生の自宅の状況は写真を撮ってもらうように変えました。
 ただ、私と受講生のマン・ツー・マンの約束だと面倒くさくなったり、ハードルが高くなると、「仕事が」や「体調が」という言い訳が出てきて、惜しいところで止まっちゃう人たちも出てきていました。そこで3人規模で教えることを始めたんです。3人になるとチームになって、応援し合って頑張るという構図になり、「講座形式がいいのでは」と思って、講座にしたのが2018年の1月でした。
 ちょうどこの講座を立ち上げるタイミングで、たまたま別の仕事で東京に出張して、友人とご飯を食べたんです。その時に友人から「その仕事は絶対東京でニーズがある。都会ではご両親が近くにいないから、夫婦でやるしかない。でも、夫婦でやろうにも、夫は忙しい。そんな忙しい女性の役に立つよ」と言ってくれた言葉が残っていたので、東京への進出を決意しました。最初はうまくいかないこともあったんですが、講座を続けていくうちに少しずつ人が集まってきました。そして「大阪でもやってほしい」というリクエストが来たことで、2019年の1月から大阪でも始めました。
 4回の講座でも「来れない」という人がいたので、動画で学べる仕組みをつくった矢先、2020年にコロナ禍がありました。皆さん家にいる機会も増え、オンライン講座を早くから展開していたことでたくさんの方に参加いただくことができました。2018年の1月に始めた講座も46期になり、卒業生は2200名を超えました。

片づけで人生は変わる

Q.受講生が増えていく中で、忘れられないエピソードはありますか?
西﨑:離婚のために家を片づける、家を出るための準備をといって来られる人もいらっしゃいます。でも私は、片づけってノウハウじゃないと思っています。基本の片づけを継続させるためには、実は家族とのコミュニケーションが大切。私も、うまく子どもたちとコミュニケーションがとれたことが大きかったので、自分だけで頑張ると思い込んでいる人たちに「そうじゃないよ」と言いたい。片づけるということを通して「家族と本音で話してください」というのを、プログラムに入れるようにしています。
 あとは、私が必ず言うのは、家族に「ありがとう」を言いましょうということ。意外と自分からは言っていないものですよね。受講生たちも、最初は目を見て言えなかったけど、LINEで「ありがとう」と伝えていたら、夫も少しずつ変わってくれると。「あれっ、意外とうちの夫、いい人じゃん」と気づいて、講座が終わる頃には、離婚はなしでもいいかなって思えるぐらいまでになったという方がいらっしゃいます。私は自分が離婚したので、離婚に対して肯定も否定もしないんですけど、やっぱり子どもたちのことを考えると、せっかくなら楽しく過ごせたほうがいいよねって思います。片づけてみたら、家族の本音が聞けたとか、変わったという話を聞くとすごくうれしくなります。

Q.片づけで人生が変わることもあるのですね。
西﨑:本当にそうなんです。家に帰って、片づいてないと、現実を突きつけられるじゃないですか。ちょっとでも片づくことで希望が見えるとか、そういうのを聞くとすごくうれしいです。お母さんが生き生きしているとか、両親が仲よくすると、子どもがうれしいんですよね。私は、「家を片づけたいわけじゃない」ということを受講生にも言っています。家が片づこうが片づかまいが、あなたたちが本当にやりたいことができる人生を送ってほしいと伝えています。あとは、多くの方が、できなかったお母さんの実家の片づけを手伝ってあげたり。「一緒にやろう」という感じで、自分を起点に上と下に世代間、3世代がつながっていくから、いいなと思っています。
 ありがたいことにすばる舎さんと小学館さんから出版のお話をいただき、受講生さんが買ってくださったんですが、「この本面白いから、読んでみて」と言って、義理のお母さんに渡されたりとか(笑)。片づけが苦手そうな人に、「片づけたら」って言うと角が立つけど、「この先生、面白いから」って言うと、読んで興味を持ってくれるとか。「片づけなさい」って、ちょっとね、言えないですよね(笑)。でも、「本を読んでみて」というのは言えるかなと。面白いからといって広げてくださる方がいらっしゃいます。

Q.お話を聞いていると片づけは家庭だけでなく、仕事にもつながっていると思います。
西﨑:そうなんです。片づけることは、時間管理とか、そういう意味で、生産性を上げるツールなので。
 この間、学生向けに講座をしたときも、「就活と片づけ」というテーマで「社会人になる前に、片づけられたほうがいいよ」と伝えました。実はうちの息子はコロナ禍に大学生だったので、就職のときにいわゆる留学などの自己アピールがないと言って困っていました。「いや、片づけすごいできるよね」と私が言うと、「あっ、そうやん」って。ひとり暮らしの部屋の様子を貼って、「僕は片づけ得意です。こういうことが僕の特性です」というのを出したら、内定をいくつかもらえたり、最終面談まで残ったりしたんです。
 いろんな経営者の人たちに話すと、「その自己アピールされたら、とりあえず一回会ってみようかなと思う。海外へ行きましたとか、ボランティアをやりましたとかって埋もれるより、日々の生活の人となりが分かるので、面白い」っておっしゃられていましたね。時間管理とか、当たり前のことができる能力って、意外と仕事をしているときに大事だと思いますね。

Q.国際女性デーに関連した質問ですが、Homeportさんが女性の働きやすさのために実践されていることはありますか?
西﨑:社員の半分ぐらいは、東京ではなくリモートで全国各地で働いています。講座があるときは時間の縛りがありますけれど、それ以外は自分の動きやすいように、今日中に終わらせればオーケー。「何時から何時まで勤務してください」という決まりは基本ないです。あとは、私が会社をつくったときにやりたかった「社内旅行」を去年初めてしたんです。家族みんな来れる人は来てもらって、子どもも夫もオーケー。何なら彼女もオーケー。それをやることによって、その人のバックボーンが見えるんです。だから、仕事のときに急きょ、「うちの子が熱が出て」といったときにも、「あ、あの子ね」って分かったら、「大丈夫、代わってあげる」というのがすごく進むと思うんです。みんなのバックボーンも知れるし、子どもたちもお母さんやお父さんがどんな人と仕事をしているか知りたいから、お互いが助け合える仕組みにもなるだろうと考えています。今年もやろうと思っています。

Q.西﨑さんが大切にされているモットーはありますか。
西﨑:「今日が一番若い」ですね(笑)。多くの女性は、年齢を言い訳にしていろんなことができなくなるって思っちゃうけど、私は逆に48歳の起業がよかったのかもしれません。女性の困り事を全部やってきた感があったんですよ。結婚、不妊治療、切迫早産やワンオペ育児、あとママ友問題とかも経験しました。その後、離婚して、シングルマザーを経験して、なおかつ再婚して。娘の海外留学や、親をみとるとか、実家の処分をするとか、お墓をしまうとか。本当に女性が何かぶち当たるなっていうのが全部降ってきたんですよ。でも、それがよかったなと思っています。こんな私でもクリアできるんだっていうのを皆が知れば、ちょっと勇気に繋がるかなと思っています。嫌なことって実はすごくギフトだった、ネガティブなことは全部ギフトだったなって。それは今仕事をしていてもすごく思います。筋トレの筋肉痛の後は筋肉ができるような感じですよ。

Q.今後取り組みたいことなどはありますか?
西﨑:実は「私の仕事がなくなればいいな」と思っているんです。要は、片づけに悩んだり、困ったりする人がなくなったらいいなと思っています。例えば片づけが教育の一つになっていけば、当たり前のように片づけたりとか、男女関係なく取り組むようになる。そうすると私の仕事ってなくなると思うんですよ。そうなったら一番御の字ですね。

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