結婚してはじめての嫁仕事は、旦那の故郷で、結婚の挨拶をすること。 都会生まれ、都会育ちの嫁を待ち受けていたのは、 山奥の限界集落と、村人とのディープすぎる交流でした。
無人駅に到着
その週末、友人Aは、大きな荷物を手に、無人駅に降り立ちました。 半月前に結婚式を挙げて、晴れて夫婦になったAの旦那が
「俺の故郷は、本当に何もないよ。強いて言えば、山に猪と熊がいる!」そう話していた通りの田舎。 都心から新幹線で4時間、鈍行に乗り換えて1時間半、ようやくたどり着いた頃には、薄闇に包まれていて、人の気配がないかわりに、あちこちからカエルの大合唱が聞こえてきます。
生まれも育ちも都会っこの友人は
「ここは… 八つ墓村か!?」と、田舎の雰囲気に圧倒されていました。 そもそもAが旦那の故郷を訪れることになったのは、義実家から
「こちらでは、花婿花嫁が、ご近所さんを一軒一軒巡って、結婚の挨拶をするもんだ」と何度も催促されたから。 義実家から用意するように言われたものは二つ。村のほぼ全ての民家30軒分のお菓子の折詰めと、花嫁花婿の名前入りの手ぬぐい。手ぬぐいが仕上がるまでに時間がかかり、Aと旦那は、手ぬぐいがガサガサ音を立てる紙袋を持ち、帰省したのでした。
噂話が大好きな、あっこちゃん?!
翌朝、結婚の挨拶に村を巡ると、行く先々で
「あぁ! あんたが山本さんのところのお嫁さんね。さっき、あっこちゃんが知らせにきたよ〜」と言われます。 あっこちゃんとは、80代にして噂話が大好きな、村のスピーカーおばあちゃん。めったにない結婚話に張り切って、
「山本さんとこの嫁がきたぞー!」と先回りして、言いふらしてまわっているらしい。
友人Aと旦那は、お菓子と手ぬぐいを抱え、ぽつんぽつんと点在する民家を一軒一軒巡って挨拶をしていくうちに、とうとう途中であっこちゃんに追いつきました。 玄関をガラッと開けた瞬間、しわしわの顔で、にっかり笑うおばあちゃんに遭遇。
「山本さんとこの嫁がきたぞー! あ! これ!」と、勝手に紹介されました。
「なんで親戚でもないのに、会ったこともないのに、勝手に噂を言いふらすの!?」と最初は怒り心頭だったAも、その笑顔を見たら、すっかり脱力。怒る気力が失せてしまいました。
あっこちゃんは、
「わしゃ、先にいくよ」と、一足はやく花嫁の到着を知らせるために、折れ曲がった腰のまま、すごい速さで歩いていってしまいました。 他にも、田舎特有の人と人との距離の近さは、Aにとって驚きの連続でした。
田舎の洗礼にびっくり
「赤ちゃんを早く、たくさん授かりますように」と、初対面のおじいちゃん、おばあちゃん達に下腹部を触られること3回。にこやかにしていましたが、「ひぃぃ〜〜! 初対面でお腹さわる!?」と内心ドン引き・・・。 あるおうちでは、
「去年獲った熊の腕を見せてやろう」と、冷凍された巨大な熊の腕を手渡され、腰をぬかしました。都会っこが驚く様子が新鮮で、面白かったのか、熊獲り名人のおじいちゃんは、熊捕獲の様子を事細かに語り始め、Aはずっしり重くて、キンキンに冷たい熊の腕を持ったまま、その武勇伝を聞き続けるはめになりました。
田舎の洗礼を受けて、驚いたものの、都会でのドライな人付き合いしか知らないAにとっては、新鮮で面白く映ったよう。
「今では、帰るたびに、あっこちゃんから村のスキャンダルを聞くのが楽しみなんだ〜」Aはそう笑いながら、村でのびっくり話と、村名産の果物をおすそわけしてくれました。
(ファンファン福岡一般ライター)