小さな会社ほど、驚くような人事が突然発表されたり、些細な揉めごとが大きな問題につながったりと、めちゃくちゃな状態になりやすいものなのでしょうか。そもそもの発端は、職権乱用してしまう恋多き上司と、そのパワハラ体質が招いたのですが… こんな事件がありました。
「毎日忙しい!」が自慢の部長
前職は、従業員20名の小さな会社。
部長以外全員女性という環境で、パワハラ・セクハラ何でもありの部長が全権を握っている状態でした。
部長は
「俺が1年で休むのは、元日だけ! 美容業界にいたので、スーツのいろはを学んだ。それから毎日スーツを着ているから、私服は1着も持っていない」と自慢していました。
とはいえ、20年前に学んだ知識のまま凝り固まってしまったセンスは、最悪。スーツはテカテカの生地がお好みで、襟が大きなシャツをスーツの上に出すスタイル。裏では
「ちょい悪おやじに憧れているのかな」と噂していましたが、社内では誰も部長の服装に触れることはありませんでした。
お気に入り社員のひと言で決意!
職権乱用が激しかった部長。
あるとき、部長にだけ見せる“ツンデレ”な態度がお気に入りだった社員を、急に課長職に任命し「毎月末、課長面談の時間を設ける」と決めました。
課長になったAさんも、実は厄介な人。
定時で帰れる業務量なのに、遅くまで残って残業代を稼いでいたり。気の強い女性社長と常に犬猿の仲で、
「私が作った管理システムは、辞めるときにすべて消す」と啖呵を切ったり。同期の社員も気を遣うような、あまり近寄りたくない存在でした。
しかし、そんなAさんとの共通の趣味があった部長。面談は、衝立1枚を挟んだ会議スペースから、いつも楽しそうな声が聞こえていたのですが、業務に関する話は30分ほどで終了。その後は、お互いの好きなアニメの話を延々とするのが、毎回のことでした。
ある日
「社外の人間に会わない日は、スーツでなくてもいいのでは?」と、Aさんに提案され、すっかり舞い上がった部長。仕事納めの日に、
「年明けから、私服で出勤する!」と、満面の笑みで、スタッフの前で宣言しました。
みんなで褒めましたが…
年明け初日。出社するやいなや、何度も私たちのデスクの前を行ったり来たりする部長。平然を装っていますが、明らかに「私服着てきたよ! 褒めて!」という空気です。
仕方なく
「私服、新鮮ですね!」
「おしゃれ!」と、みんなで絶賛。
それから毎日、部長の私服を褒める“苦行”がスタート。ご機嫌な部長は、まだまだレパートリーを増やしたかったようで
「旦那さんは、どこで服を買ってる?」と相談されたこともありました。
ただ、50歳を過ぎた、中年太りの部長。なのに、服のラインアップは、デビューしたてのアイドルのような、くすみピンクのパーカー、真っ白なタートルニット、初心者丸出しのドッキング素材のシャツ… どれも、まったく似合っていませんでした。
Aさんの強烈なひと言
Aさんは他の社員と一緒に部長に声をかけるタイプではないので、月末の面談を心待ちにしていた部長は、ウキウキしながら会議スペースに向かったのですが…
何でもズバズバ言ってしまうAさんは
「威厳がなくなりましたね。スーツのほうがよかったです」と、きっぱり言い放ったのです。
その瞬間、何かが弾けてしまった部長が
「Aさんが言ったから変えたのに?」とブチギレ。
そして「物言いのひどさが前から気になっていた」「一人だけ残業が多いことに目をつぶっていた」「社長からAさんに対する指導が入っていたがフォローしていた」など、ぶちまけ始めたのです。
これを機に、完全に“絶縁状態”になった2人。Aさんは元々、態度の悪さから社長に目をつけられていたので、さらに居心地が悪くなったのでしょう。次の月には面談がなくなり、その次の月には
「2カ月後に退職します」とAさんが宣言しました。
恋する部長のジェットコースターのような感情の変化と、あっさり退職を決めるAさんの責任感のなさに、スタッフ一同「ありえない」と、呆然。
ただ、私服を酷評したのはAさんだけだったので、その後も部長の“おしゃれすぎる”私服を褒める日々はしっかりと続き、「こんなことなら、褒めなければよかった」と後悔したのでした…。
(ファンファン福岡公式ライター/ふわずみ みか)