クリニックのスタッフ増員募集をかけたところ、仕事に意欲的な女性社員の採用が決定。仕事に積極的に取り組み、患者さんからも人気が高い明るい彼女。しかし半年経った頃、突然の退職の申し出が。その退職理由は、信じられない内容でした。
期待の新入社員!
クリニックが繁忙期となり、スタッフ増員の募集をかけたところ、25歳の女性、Sさんから応募がありました。オンライン面接をした院長から
「直接会って面接しようと思うから、同席してほしい」と相談を受け、私も面接に同席させてもらいました。
当日会ったSさんは、しっかり整えた身なりとハキハキとした口調で、
「医療現場という憧れの職種で、楽しく仕事をしていきたいです!」と強い熱意を表明してくれました。仕事に取り組む意思も強いのだろうと院長も、私自身も感じ、即採用となり彼女の入社が決まったのでした。
職場は明るい雰囲気に
入社後、Sさんは私の指導のもとで働き始めました。
小規模なクリニックとはいえ、専門は外科です。処置や手術が多いため、細かい器具の名前や、処置の内容など覚える範囲も多く、そこで挫折して辞めてしまった人もいました。
しかしSさんの、わからないことは自ら質問し、自分でやれる仕事を率先して見つける姿を見て、とても責任感のある子だと感じていました。
また、患者さんから
「笑顔が素敵でいい子が入ったね」と、私も他のスタッフも話しかけられるようになり、Sさんがクリニックの人気者に成長していく姿を見て、「これからのクリニックにとても必要な子だ」とスタッフみんなで話していました。
突然の退職申し出
月日は流れ、Sさんの入社から半年が経ちました。仕事にも慣れてきて、いつものように元気に出勤をしたSさん。午前中の診察を終えました。すると休憩に入るとき、彼女は院長を呼んだのです。なんだか重い雰囲気で、個別の診察室に入る2人… その後、数十分間話をしていたようでした。
午前中は、普段と変わった様子も見せず元気に働いていたので「体調が悪いのかな?」くらいにしか感じていなかったのですが、突然院長から
「一緒に話を聞いてほしい」と言われ、私もその部屋で話を聞くことになりました。
退職理由は思いがけないものだった
部屋に入ると、Sさんはなんと涙をポロポロと流しています。いつも笑顔の彼女からは想像もできない表情に驚きました。院長が自分で説明するように促すと、彼女は話し始めました。
「以前から付き合っている彼が、仕事の転勤で地方へ行くことが先週決まったんです。私はそれに耐えられなくて、毎日頭から彼のことが離れず、仕事で気を紛らわしていたのですが、やっぱり限界で…。彼の元へ一緒に行きたい」と泣きながら話しました。
困り顔の院長と目が合います。私も呆れてしまい、Sさんへかける言葉が見つかりません。まさか退職理由が、職場内での理由ではなくプライベートな事情だったとは。
私からは、新しい働き方の提案、みんな彼女に期待をしていること、など話をしたのですが… 泣いてばかりで話にもならず、その日Sさんは早退しました。
彼女が下した決断
Sさんと話をした日。家に帰ってからも「彼女をどう説得しよう」と考えていました。とりあえず明日話そうと決めて、翌日を迎えました。
しかし、翌日。出勤すると彼女の姿はありませんでした。電話も繋がらず、LINEも既読になりません… 彼女は突然消えてしまったのです。
まさかの出来事に、私は彼女に期待したことを後悔したのでした。
他のスタッフは理由を知らなかったので昨日の出来事を説明すると、プライベートな理由で退職を選んだ彼女に困惑し、何よりも連絡をせず逃げるように来なくなったことについて怒りの表情を見せていました。
その後、院長は突然の退職を防ぐため、採用面接では質問項目を増やして事細かに確認をとる事態となってしまったのでした…。
今頃、彼女が例の彼と幸せに過ごしているのかわかりません。
完璧すぎた彼女が、実は必死に仕事をこなしていたという事実を知り「彼女が悩んでいたときに、気づいて支えてあげられればよかった」と今になって後悔の気持ちを感じています。
(ファンファン福岡公式ライター / niko mama)