續・祖母が語った不思議な話:その肆拾壱(71)「飛び出す」

 明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

 社会人になって7年目の夏、実家のあるK市で久しぶりに中学時代の友人五人と飲んだ。
 現状報告から始まって「太ったな」だの「髪の毛がピンチ」だの盛り上がり、そのまま二次会のカラオケになだれ込んだ。
 次の日に仕事があったため一人先に抜けて、最終のJRで戻った。

 「お疲れさま!」
 翌日の夜遅く、飲み会の幹事だったUから電話がかかってきた。

 「幹事、ご苦労さま。あれからどうしたの?」
 「あの後2時間くらい歌って、みんなでTの家に行ったよ。あいつは一人暮らしだから気兼ねしなくていいからね」
 「そうだったんだ。Tんちも久しぶりに行きたかったなぁ」
 「また今度行こうや。あ、写真メールで送るわ」
 「ありがとう!」
 「それじゃ」

 それから二、三日してUから画像が送られて来た。
 みんな楽しそうで昔とちっとも変わらない笑顔だった。

 「ん?」
 一次回・二次会のはあるが、T家での画像がない…
 「ありがとう。Tんちの写真も見たいから、あったら送って」とメールを返した。
 
 次の日、Uからちょっと話したいことがある。週末そちらに行くので会わないかという電話がかかってきた。
 なにやら訳アリそうだったので、了承した。

 「写真はあれで全部なんだよ」
 待ち合わせた喫茶店でUが口を開いた。
 「じゃああの後は撮らなかったんだ」
 「いや…撮ったんだけど…順を追って話すよ。今日はそのために来たんだし」
 「うん」

 「あの後、かなり遅い時間だったんだけどみんな妙にハイでね。いつの間にか怪談大会になったんだよ。夏だからかな? 一通り話が出尽くしたところでTがA貯水池の話を始めたんだ」
 「A貯水池? なにかあったっけ?」
 「『怪談っていうんじゃないけど一月くらい前の夜、かなり久しぶりに貯水池の横を抜ける道を車で通ってたらカーブから突然子どもが飛び出してね。思わずハンドルをきって避けたんだ。路肩に停めて降りてみると子どもの形の飛び出し注意の看板。あれには驚いたよ』とTが言うんだ」
 「ああ、あの手の看板は油断してるとビックリするよね」
 「うん。でもこの話、変なんだよ」
 「どこが?」
 「君は地元を離れてけっこう長いから分からないのも無理ないか」
 「どういうこと?」
 「ないんだよ」
 「何が?」
 「看板。確かに昔はあったんだけど、ボロボロになったからと7年前に撤去したんだ。社会人になって最初の仕事としてかかわったから間違いない」

 「それ、話した?」
 「もちろん。でもみんな『またまたぁ』とか言って信じないんだ。それで確かめに行くことにしたんだ」
 「でも運転は…あ、そうか君は下戸だったね」
 「うん。Tの車に乗り込み貯水池を目指した。ほかに車なんて一台も通ってなくて二十分くらいで件のカーブ近くに着いたよ。そこで路肩に車を停め、歩いて確認しに行った」
 「どうだった?」
 「もちろんなかったよ」
 「それで?」
 「車に乗って引き返すことにしたよ。Tは納得がいかないような感じでブツブツ言ってたけど」
 「そうかぁ」

 「お待たせしました」ウェイトレスがアイスコーヒーを二つ運んできた。

 「あの辺は道幅が狭いんで方向を変えるためちょっと先の貯水池横の公園の駐車場に入った。その瞬間、Tが気分が悪いって言い出し突然もどしてね。皆で背中さすったり吐いた物を片付けたりしてたんだ」
 「大変だったね」
 「Tが落ち着いたら帰ろうと駐車場で煙草を吸っていると公園から貯水池に続く橋を何かが移動しているのに気が付いた。わりと明るい夜だったんで見えたんだ。白い服の母子が」
 「そんな遅い時間にそんな場所に?」
 「しかも母親は夜中なのに日傘を差している…明らかに普通じゃないだろ? 他の連中も驚愕していてね、口々に『早く帰ろう!』と言うんだ」
 「それから?」
 「皆を車に乗せた後、証拠にと母子に向かってデジカメのシャッターを切るなり発車したよ。Tの家に着くともう始発が動き始めていたから記念写真を撮って別れたよ」
 「そんなことがあったんだ」
 「そして画像を送ろうと整理していたら…」
 「していたら?」
 「…あの母子の写真にはぐにゃぐにゃした光しか写ってなかったんだ。それどころかT家に戻って撮った写真にも全部変な光が入っていたんだ。気持ち悪くてね…思わず削除したんだ。これが写真を送れなかった理由だよ」

 「他の連中はどんな反応だった?」
 「いや、話していない。なんとなくその方がいいような気がして」
 「デジカメは? その後も光は写る?」
 「…怖くて触れないよ。どうしたらいいかな? 君のおばあさん、こういう話に詳しかったんじゃなかったかい? 聞いてみてもらえないかな」
 Uの頼みにその場で祖母に電話し、この出来事を話した。

 翌日、祖母から「話はしておいたから、そのカメラを今から言うお寺さんへ送るように」との電話がかかってきたので、それをUに伝えた。

……………………………………………

 それからA貯水池近辺では不審火や陰惨な事件が続き、すっかり廃虚だらけ。
 かなり時間が経った今、全国的に有名な怪奇スポットとなっている。
 イニシャルも変えているが、「あ、あそこだな」と分かる人もいると思う。

 ちなみに友人たちは皆元気にしている。

チョコ太郎より

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※この記事内容は公開日時点での情報です。

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