最新作「怪物」で、第76回カンヌ国際映画祭 脚本賞とクィア・パルム賞を受賞した是枝裕和監督。3月31日、九州大学大橋キャンパス(福岡市南区)で行われた、クリエイティブ・ラボ・フクオカ主催の「是枝監督による映画づくりのための特別講座」の模様を取材しました。
「クリエイティブ・ラボ・フクオカ」とは?
ゲーム、ファッション、音楽、映画・アニメ、デザインなど、クリエイティブに関連する企業が多いことでも知られる福岡市。福岡市を拠点に活躍するクリエイターも多く、それぞれの分野に関連したイベントも多数開催されています。
こうした活動をバックアップし、クリエイティブ産業のさらなる振興に取り組んでいるのが「クリエイティブ・ラボ・フクオカ」です。 市内のクリエイティブ事業者を対象にした「未来技術活用によるコンテンツ創出支援」、企業や表現者の発表と交流の場でもある最先端エンターテインメント体験型フェス「The Creators」、さまざまな分野のクリエイターやゲストとの交流を通してビジネスの成長を後押しする「Creators Meetup“GROWING”」など、多方面から支援しています。
映画・映像クリエイターを対象にした是枝監督による特別講座
クリエイティブ・ラボ・フクオカが企画し、福岡市を拠点に活動する映画・映像クリエイターを対象に行った1日限りの企画が「是枝監督による映画づくりのための特別講座」です。
講座には、事前応募で選ばれた福岡の映画・映像クリエイター5名が参加。自己紹介を兼ねた上映作品のプレゼンテーションを行った後、約15分の作品を上映。その後、是枝監督から直接、作品の講評やアドバイスを受けました。
質疑応答では、それぞれの作品づくりに生かしたいと具体的な映画製作への質問が次々と飛び出しました。是枝監督は、一つ一つの質問に具体的な作品を挙げながら丁寧に答えていました。ここでは、「絵コンテ」と「子どものオーディション」について、是枝監督が話した内容をご紹介します。
「子どもはすべてオーディションで選ぶ」
「子役のオーディションは最初4、5人で行います。一緒に並んでもらい、プロデューサーや助監督の質問に答えるのを、僕は脇から観ている。質問に答えるときや、ほかの子がやりとりしているときの反応を見るんです。重要なのは、『この子を撮りたい』と思うかどうか。選ぶときの決め手は“勘”ですが、これが外れることはほとんどないですね。設定と年齢が違ったら、その子に合わせて脚本を書き直すこともあります。『この子でいく』と決めたら覚悟を決めて、準備期間を長めにとり、その子としっかり向き合える時間を持つようにしています」
「万引き家族」のときも迷いはなかったと言います。「4歳の女の子役に選んだ佐々木みゆちゃんは、演技経験がほぼありませんでしたが、どうしても彼女でやりたかった。樹木希林さん演じるおばあちゃんが亡くなり、取り調べを受けるシーンは『怖いから嫌だ』となかなかやってくれなくて(笑)。ときには子どものシーンだけで半日潰れることもありますが、子どもをせかしながら芝居させてもうまくいかないので、それを見越して、子どもの撮影には時間をかけられるスケジュールを組んでもらいます」
「絵コンテがあってもなくても、僕が現場ですることは変わらない」
「デビュー作『幻の光』では絵コンテをガチガチに描いていました。そのせいで、現場で見える景色を見逃していたことに気付いたので、しばらくは絵コンテを描くのをやめ、現場で面白いアングルを発見するやり方に変えました。それで、『もう絵コンテに縛られない』と思えるようになったので、今は、スタッフが段取りしやすいように、カメラワークやカット割りが分かるようなものを描いています。『誰も知らない』でも、ある程度は描いていますが、自分なりに勉強し直したことを反映させて絵コンテを描くようになったのは、『歩いても 歩いても』からです。でも、現場で役者を動かしてみて違ったら絵コンテは捨てる。だから、絵コンテがあってもなくても、僕が現場でやることは変わりません」
他にも、日本の映画業界の課題や海外の映画祭事情など、興味深い内容盛りだくさんだった特別講座の質疑応答。詳しく知りたい方は、下記の記事(クリエイティブ・ラボ・フクオカのインタビューページ)も合わせてご覧ください。
ライター:大迫章代