明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。
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小学二年生の夏、夕陽に染まった家までの道を友達たちと歩いていると素早く何かが前を横切った。
痩せた黒猫だった。
「あっ! 黒猫だ。不吉不吉!」
「ホントだ! 逃げろ〜!」
そう言いながら全員走って通り抜けた。
夕飯の後、祖母にこのことを話した。
祖母は「黒猫が不吉ってのは外国から入って来た迷信。日本では昔から厄除けの力があると好まれてきたんだよ」と教えてくれた。
「へえ、じゃあ悪いことは起こらないのかな」
「でも何かが前を横切ることで不思議なことが起きるという言い伝えは日本にもあるよ」
そう言うと祖母は語り始めた。
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時は江戸時代、季節は夏。
平屋(たいらや)という男が朝早くに家を出た。
平屋は行商人で少し離れた町まで頼まれた品を届けるためだった。
晴れ渡った空の下を鼻歌まじりで歩いて行くと、村はずれの川に行き着いた。
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橋を渡ろうとしたが、二十歳くらいの女がしゃがみこんでいる。
「どうなさいました。具合でも?」
「いえ…あそこに怖いものがいて…」
「怖いもの? …何もいないようですが」
「ひ、ひきが…」
「ひき? あぁ! 確かに大きな蟇(ひきがえる)が。除けてあげましょう」
平屋は蟇を持ち上げ、ぽちゃんと川に逃がした。
「さあこれで大丈夫ですよ」
頭を下げる女に別れを告げ先を急いだ。
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しばらく行くと目の前を何かが横切った。
鼬(イタチ)だった。
「鼬の道切りか…昔から凶事に遇うといわれてるが…」
そう思いながらも平屋は進んで行ったがすぐに異変に気付いた。
…おかしい
…この森から抜けられん
近道として何度も行き来したことのある森の抜け道で完全に迷ってしまった。
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仕方なく進んで行くと一軒の東屋があったのでそこに腰を下ろした。
まずは落ち着こうと煙管を取り出した時、後ろから声がした。
「先ほどはありがとうございました」
橋で出逢った女が立っていた。
「実は鼬に遇ってから道に迷ってしまい途方に暮れていたところです」
「鼬の道切りは一度家に帰って出直すと祓われると言われています。そうなさるのが吉ですよ」
女の言う通り来た道を戻ると、すんなり森を抜けることができた。
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家の近くまで戻ると妙な匂いがした。
…これは…煙!
家に駆け込んでみると座布団から真っ赤な火が上がっている。
急いで土間に落とし踏み消した。
「あぁ出がけに吸った煙草の不始末だ。戻って来て良かった!」
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平屋はもう一度火の始末を確認すると再び出発した。
今度は何事もなく森を抜けることができた。
「道中ご無事で」
あの女の声がした。
振り返ると鼬の茶色い背中が森に消えていくのが見えた。
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「イタチの道切り…でも助けてくれたんだね」
「イタチは蛙と相性が悪いって言われてたから、恩を感じたんだろうね」
そう話していると庭からミャオミャオと声がした。
あの黒猫だった。
祖母と二人で牛乳に食パンを浸したものをやるとかつかつと平らげた。
「着いて来たんだ! どうしよう?」
「痩せてるね。しばらく家で養ってあげようか」
「うん!」
それから貰い手が見つかるまでの三カ月、黒猫と暮らしたが不吉なことは何も起こらなかった。
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チョコ太郎より
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