私の勤める会社に、いかにも優等生で、仕事もできそうな新入社員がやってきました! 期待の新人でしたが、まともに仕事をする前に、思いもよらない形で会社を去っていきました。後にも先にもいなかったドン引きした新入社員の話です。
期待の新入社員
私が勤めるコールセンターでは、苦情の電話に対応したり、怒られたりすることが珍しくありません。社内にも気難しい人がいて、やり取りに気をもむこともよくあります。
ただ、基本的に対応方法についてはマニュアルがあり、何かあればすぐ上司に相談できる環境が作られています。経験を重ねいけば、やりがいもあって働きやすい職場だと感じています。
そんなわが社に、大学を卒業したばかりのフレッシュなAさんが入社しました。挨拶、敬語も完璧。研修中にも積極的に質問をしてきて、絵にかいたような優等生です。これは期待できそう! と同僚と話していました。
基本業務をスルー
研修が終わり、いよいよ業務に入ることに。コールセンターなので、基本業務は電話をかける・受けること。新入社員は先輩が横にいる状態で電話をとり始めます。
Aさんなら電話を取ってくれるはず、と期待していたのですが、待てど暮らせど電話に出ません。呼び出し音が鳴っているタイミングでノートに書いたり、パソコンを触ってみたり、先輩に話しかけてみたり、あの手この手でとにかく電話に出ない… 同じ新入社員の子が10本電話を取った頃、Aさんは3本とるのがやっとでした。
Aさんを観察すると、どうやら失敗するのが極端に怖い様子。何かを入力・作成するといった失敗が防げることは積極的にやっているようです。電話や接客など、経験・自信がない、予想外なことが起きそうな業務には、理由をつけて先回しにしていることがわかりました。
これは思ったより育成に注意が必要かも、と思っていた矢先。極力電話に出ないAさんでしたが、そんな中でも取った電話を、社内のおじさんに取り次ぐことに。しかし、Aさんは、相手の名前を聞き忘れていたのです。
おじさんに誰からなのかと聞かれても、
「男の人で~」
「言ってたんですけど、聞き取れなくて~」と、要領を得ない言い訳ばかり。忙しい中、そのやりとりにイラついたおじさんは
「しっかり聞かないと困るよ!」と一蹴。
ま、そりゃそうだ… と思いながらAさんを見ると、目に涙が。声をかけようとしましたが、そのままトイレへ行ってしまいました。戻ってきてから、
「大丈夫?」と聞くと、
「大丈夫です」とひきつった顔。
電話応対は最近の子にはなじみがなくてハードルが高いはず。ゆっくりでも、慣れてくれるまでしっかりサポートしよう、今回のことはちゃんと反省して、次に生かしてくれたらいいな、と思っていたのですが…。
連絡を入れてきたのは…
おじさんの喝が入った翌日。
出勤すると、Aさんの姿がありません。どうしたのかと思っていると、上司の周りがざわついているのが目に入りました。
事情を知っていそうな人に話を聞くと、上司宛にAさんのお母さまから電話があり、
「娘に今の仕事は向いていないので、ほかの部署に異動させてください」と言われたとのこと。
「嘘でしょ!」と思わず大声が出てしまいましたが、本当のことらしく、上司は人事関係者と会議室へ籠っていました。その結果、Aさんは総務課へ異動することに。決定した翌日、Aさんは入社した日の様にはつらつとした顔で出社してきました。斜め上に図太い神経に、みんな呆気にとられました。
しかし、異動したところで社外とやり取りする電話対応、接客は避けられません。必要な電話に出ない、かけないが基本。これをやってと言われたことを先延ばしにしてなかなか手を出さない… 総務課でもAさんは本領を発揮。空気がピリついているのが、外から見てもわかるほどでした。電撃異動から1カ月ほどで、その空気に耐えかねたAさんはまた欠勤…。
その後、再びお母さまから、今度は総務課長宛に電話があり、
「娘にはこの会社は合わないので、退職します」と言われ、Aさんは会社に来ることはありませんでした。
優等生に見えたAさんでしたが、これまで失敗や挫折した経験がなかったのかもしれません。社会に出れば失敗はつきもの。そのことにAさんとお母さまが早めに気づいていればいいなと思います。
(ファンファン福岡公式ライター/かきくけ子)