今年も運動会シーズン。この時期になると必ずおばあちゃんが話し出す、私が小学生のときの運動会の話があります。そして毎回号泣するんです。今回はその涙の理由をお話ししたいと思います。
運動会といえば私?
長男次男が幼稚園に通い始めた頃のこと。先週あった息子たちの運動会の映像を見せようと、私のおばあちゃんの家に遊びに行った際の話です。
編集もせずとりあえずDVDにした映像を、
「可愛いねぇ」
「がんばってるわねぇ」とニコニコ見ていたおばあちゃん。ひと通り見終わったところで、ふとこんなことを言いだしました。
「運動会といえば… おばあちゃんには孫が4人いるけど、なっちゃんの運動会が一番印象深いわぁ」
「え? そうなの?」
運動がかなり苦手な私は、運動会で活躍した記憶がありません。やっぱり初孫だから特別なのかな? と首を傾げます。
「妹ちゃんとか、従兄弟くんたちもそりゃあ可愛かったけど…。なっちゃんの運動会は忘れられないねぇ」
「なにかあったっけ?」小学校6年生のときに応援団をやったけど、それかな? と思いながら、懐かしそうな表情をしているおばあちゃんが話し出すのを待ちました。
急に泣き出すおばあちゃん
しばらく沈黙した後おばあちゃんの目がうるうるしだし、ポロポロ涙を流し始めてしまったのです。
「え! 大丈夫!?」慌てた私に向かって微笑み、前掛けで涙をぬぐいながら、おばあちゃんは言います。
「なっちゃんはねぇ、幼稚園のときも、小学校のときも、いつもいつも最後まで一生懸命走っててね…」
「うん…」
「一生懸命だけど、楽しそうに走ってて。おばあちゃんを見つけると、ニコニコ笑ってくれてねぇ」
思えば、おばあちゃんが見に来てくれていることが嬉しくて、笑ったり手を振ったりしていました。そんなところを覚えていてくれたなんて。私もつられて涙しそうになったのを、鼻をすすって堪えました。
涙の理由があきらかに
おばあちゃんは、当時の私を思い出しているようで、涙を流したまま、話し続けます。
「走るのが遅くて、みんなに置いて行かれてビリなのに… ニコニコ一生懸命走ってるところが、不憫で不憫で… おばあちゃんの方が辛くなっちゃってねぇ」
「え?」
おばあちゃん、感動した思い出し泣きじゃなくて、憐れんで思い出し泣きしてるの? 思ってもみなかった理由に、私は目が点。
「“台風の目”のときは、一人だけ棒を持てないで後から走って行ってたし」
「… そうだっけ」
台風の目とは4、5人で一本の棒を握って走り、棒をバトン替わりにする集団のリレーのようなもの。チームの全力疾走についていけず、棒を持たずに走ることになった苦い記憶が蘇ってきました。
「クラスのリレーのときは、自分の番が来るまでずっと不安そうな顔をしていたねぇ」
「うん… 接戦のまま自分の番になると困るからね」
よく覚えているなぁと感心する私に、おばあちゃんは続けます。
「なっちゃん、本当に足が遅かったね」
何の確認? と苦笑いしつつ、
「うん、かなり遅かったよ(笑)」と答えました。
「辛くなかった?」
「つら… かったよ。まぁ…」
「そうよね。それでも一生懸命走って、ニコニコしてて本当に偉かったねぇ」と言って、また涙ぐみ始めるおばあちゃんを、慌ててなだめたのでした。
運動会ネタの定番に
“お年寄りは同じ話ばかりする”なんて言いますが、運動会のシーズンになるとこの話をするようになってしまったおばあちゃん。それも、毎回号泣しながら! もともと感動しやすく涙もろいおばあちゃんでしたが、毎回憐れんで思い出し泣きはやめて!
聞かされている人も苦笑いです。私も苦い思い出を掘り起こされて恥ずかしいので、
「勉強はできた方だと思う!」
「合唱コンクールで毎年ピアノの伴奏をしたのはすごかったよね!」と自分でフォローをしながら話の流れを変えています。
特に活躍した覚えはないのに、私の運動会が一番印象に残っているなんて、おかしいと思いましたが、まさかこんな理由だったとは!
運動会が楽しみで毎年見に来ていると思っていましたが、心の中ではそんな風に思っていたなんて、夢にも思いませんでした。
毎年、運動ができない不憫な姿を見せてごめんね。おばあちゃん…! でも私なりに楽しんでたよ!
(ファンファン福岡公式ライター/さとう なつこ)