私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
「今日ちょっと俺のアパートに来ちゃらん? 見てもらいたかもんがあるっちゃん」
大学3年生の時、友人Sがそう声をかけてきた。
1カ月前にそのアパートに越して来たばかりだったSに、何か不都合があったのかと尋ねたがモゴモゴとはっきりしない。
大学近くのうどん屋で軽く夕飯を済ませて二人でアパートに向かった。
Sのアパートは古い木造家屋が多く残るT町にあった。
近くに流れる川には橋もかかっておらず、狭い道ばかりで暗い印象の町だった。
ドアを開けると薄暗い部屋の中でテレビの画面が光っている。
「つけっぱなしやったと?」
「それも話すけん。ま、入らんね」
そう言うとSは部屋の電気をつけた。
「この部屋…変なことばっかりあるっちゃんね」
来る途中で買ったビールを飲みながらSはぼそぼそと話し始めた。
「さっきみたいに消したはずのTVが勝手についたり…」
「他には?」
「そん窓の外ば何人も人影が通るとよ」
「そら人ぐらい通るやろ」
「なら、ちょっと窓ば開けてん」
言われるまま開けてみると、そこは道路ではなく隣家のブロック塀が迫っていて、とても人が行き来するとは思えなかった。
「まぁ特に害があるわけでもなさそうやし、気にせんどけば良かやん」
自分でも気休めっぽく感じながらそう言うと
「見てもらいたかて言うたとはまた別で…あそこなんよ」
そう言いながら天井の隅を指さす。
「あの天井板がどうかしたん?」
「見てもろうた方が信じてもらえるやろうけん、泊まっていかんね」
何があるのか興味があったので泊まって見届けることにした。
………
「?」
揺すられて目が覚めた。いつの間にか眠っていたようだ。
「あればい! あそこ!」
Sの声に慌てて枕元の眼鏡をかけて天井を見た。
隅の天井板が…ズレてる?そう思った瞬間スッと閉まった。
「見た?」
「板が…動いたね」
「いや、女! 女があそこから覗いとったやん!」
「女? それは見えなかったなあ…でもココなんかマズいね」
「やっぱそう思う? 越して来たばっかりなんやけどなあ」
二人とも眠るどころではなくなった。
部屋にいるのも嫌になったので近所の公園まで行き、そこで朝まで話した。
Sはとりあえず不動産屋に相談しに行くことにした。
その夜、Sは別の空いている物件に移ることになった。
敷金も全額返ってきたそうだ。
「全部説明する前に不動産屋の親父は“ああ、またか”みたいな感じやったばい」
転居先でSは気が抜けたようにそう言った。
……………………………………………
その週末、久しぶりに実家に帰ると庭に祖母が立っている。
「ばあちゃん、何しよん?」
「ちょっとついておいで」
そう言うと氏神さんのところに連れて行かれ、神主さんからお祓いを受けた。
「どうしてお祓いを?」
「妙な所に行ったろ。だから念のためにね。もう大丈夫」
なぜ分かったのか聞いたが、祖母は笑って答えなかった。