明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。
「つるかめ つるかめ」
家族がけがをしたり困ったことが起きたとき、祖母はよくそう唱えていた。
小学一年生のある日、ふと思い立って「おばあちゃん、つるかめって何?」と尋ねると
「つるかめかい? う〜ん…説明するよりお話のほうが良さそうだね。私がお母さんから聞いた話」と語り始めた。
…………………………………………
祖母の母が六歳のとき、近所に住む同い年の花代ちゃんが突然倒れ危篤になった。
三日間意識がなく、皆もうダメかと諦めかけ親戚や知り合いが集まって来ていたところぱちっと目を開けた。
それから数日するとお粥も食べられ、起き上がれるようにまで回復した。
皆が良かったと安心していると花代ちゃんは不思議なことを話しはじめた。
「この前一人でお家にいるとだれかが戸をたたいてね。出てみるとしらないおばちゃんがしゃがんでいたの。『いつものものはありますか、いつものものはありますか?』と言うんだけど何のことかわからないのでだまっていたら立ち上がり、『またまいります』といってわたしの顔をじっと見た。おばちゃんの目はまっくろでしろいところがなかったよ。ふしぎだなと思って見ていたらそれから何もわからなくなったの」
「またまいります」…その言葉が気になった両親は、花代ちゃんを連れてあちこちの寺や神社を訪ね、この出来事を話し、どうすれば良いか聞いてまわった。
「容易ならぬ厄です…」
五番目に訪ねたお寺さんから紹介された若い祓い屋が花代ちゃんの顔を見るなり言った。
「これは直接対峙しないと祓えない相手…しかも祓うのは子でないと効かない」
そう言うと奥に入り、しばらくしてなにか書かれた紙を持って戻ってきた。
「その…女…はもう一度来るから、そのときにこの紙の真言を唱えなさい。そして女の様子が変わったらもう一つ書いてある言葉を読み上げなさい。そしてこの子以外誰も声を出しても表に出てもならない」
それから三日後、戸が叩かれた。
言われた通り花代ちゃんが一人であの紙を持って出るとあの女がいた。
「いつものものはありますか、いつものものはありますか?」前と同じように聞いた。
恐ろしさをこらえ花代ちゃんは唱えた。「おんまりしえいそわか おんまりしえいそわか おんまりしえいそわか」
それを聞いた女は小刻みにふるえだした。
ここだ! 花代ちゃんは教えられた通りもう一つの言葉を読み上げた「つるかめ つるかめ」
その瞬間、女は消えた。嫌な匂いのする黒い滲みを残して。
祓い屋にお礼に行くとこう言われた。
「今回はなんとかなりましたが、ずっと先にあれは必ずまたやって来ます。その時には私もあなたたちもこの世にはいない。あれが来たときにどうすればいいかを必ず代々伝えなさい」
…………………………………………
「この話をお母さんから聞いて以来、厄払いと思って唱えてたのが癖になったのさ」
「つるとかめかぁ…なんかえんぎがいいね!」
「じゃあ一緒に唱える?」
「うん!」
そして祖母と声を合わせた。
「つるかめ つるかめ」
チョコ太郎より
いつもお読みいただき、ありがとうございます。おかげさまでシーズン2も残すところあと4話となりました。ご希望や感想、「こんな話が読みたい」「こんな妖怪の話が聞きたい」「こんな話を知っている」といった声をお聞かせいただけるとラストスパートのモチベーションアップになりますので、ぜひ下記フォームにお寄せください。
■お返事:多くの読者の方から「このお話(連載)はすべておばあさまが話されたものでしょうか?」という質問をいただいてます。この「祖母が語った不思議な話」には
1.祖母が語った話ほぼそのままのもの
2.祖母が聞かせてくれた断片的な不思議をチョコ太郎が物語に仕立て直したもの
3.祖母を除く家族から聞いたもの(チョコ太郎自身の体験を含む)
4.友人知人、後輩たちから聞いたもの
の4パターンがあります。どれもチョコ太郎が物語として読めるように語り直しています。