仕事で電車移動をしていたとき、優先席に妊婦さんが座っていました。細い体でお腹は目立っていませんでしたが、かばんにはマタニティマーク。誰も特に気にしていない様子でしたが、あるおじさんが急に妊婦さんに暴言を吐いたのです。嫌な気持ちになったそのとき…。
マタニティマークをつけた妊婦さん
その女性が座っていたのは優先席でした。電車内の座席はすべて埋まっていて、立っている人がちらほら。私はドアの付近に立っていました。電車内を軽く見渡したときに目に入ったのが、優先席に座っている女性のマタニティマーク。
「あ、妊婦さんなんだなぁ」と思った程度で、とくに気に留めていませんでした。次の駅に着くと、ひとりのおじさんが乗車。おじさんは車内を見渡すと、席が空いていなかったからか大きく「チッ」と舌打ちをし、そのまま妊婦さんが座っている席の前に立ちました。
イライラしているのか、おじさんはずっと激しく貧乏ゆすりをしています。ときどき、大きな声で「はーぁあ!」とため息をつくことも。おじさんの不機嫌な雰囲気に、こっちまで嫌な気持ちになっていたそのときでした。
妊婦に悪態をつくおじさん
「いいよな、妊婦様は。わが物顔で優先席に座れて」とボソッと、けれど確実に周りに聞こえる声で言ったのです。目の前の妊婦さんに言っていることは明白でした。遠慮のない声はよく響き、近くにいた乗客は驚いた顔で遠慮がちにおじさんに目を向けていました。妊婦さんは気まずそうな顔でうつむいて、口をつぐんでいます。
おじさんはイライラしながら
「自分で妊娠しといて、優先してくださいって、どんなご苦労なこって」と言い放ちます。嫌な言葉を容赦なく浴びせるおじさんを、驚きと嫌悪の気持ちで見つめていたとき、妊婦さんの向かいに座っていたおばさんが立ち上がりました。
優先席をゆずったおばさん
「どうぞ、私は次の駅で降りますから」とおじさんに声をかけたおばさん。おじさんは驚きながらも、ニタニタしながら
「なんかすみませんねぇ」と嬉しそうに言い、おばさんが座っていたところにドカッと着席。するとおばさんは妊婦さんの前にスタスタと歩いていき、
「大丈夫よ」と声をかけました。
おばさんは優しい声で
「妊婦様なんて思っているのは、この人だけだから! 少なくとも私はそんなこと思ってないし、たぶんほとんどの人は思ってない。大丈夫大丈夫。胸を張って優先席に座ってなさい」と言葉をかけました。
おばさんに触発されたのか、妊婦さんの隣に座っていた人や周りに立っていた人も
「僕も、妊婦だからなんて思ったことないです」
「妊娠するとしんどいことが多いですよね、わかります」と声をかけていました。
おじさんは腕を組んでそれを眺めながら、恥ずかしくなったのか、不利な状況になってバツが悪くなったのか、何とも言えない不満そうな顔。
おばさんは最後まで神対応だった!
それから妊婦さんは3駅先の終点で下車。「次の駅で降りる」と言っていた救世主のおばさんも、悪態をついていたおじさんも、私も同じく降りました。
聞こえてきた会話では、おばさんは声を上げた手前、妊婦さんに何かあってはいけないと思い妊婦さんと同じ駅で降りたのだそう。おばさんは
「いいのいいの! 予定なんてないし、どうしても私が最後まで一緒にいたかったの!」とケラケラ笑っていました。
おじさんが逆上しないかドキドキしましたが、乗客が妊婦さんの味方になったことで不利になったおじさん。「ケッ」と不満そうな声を漏らしながらも、肩身が狭そうに小さくなって人ごみの中へ。おばさんの勇気ある行動に、心の中で拍手喝采でした。
(ファンファン福岡公式ライター/K)