續・祖母が語った不思議な話:その玖拾肆(97)「ちんちん小袴」

 明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

 小学2年生の夏休みも終わろうとする頃、休み明けに提出する工作に取り組んでいた。
 元来物を作るということが好きだったので、朝からはじめ昼ご飯も食べずに集中していると、おにぎりを四つ皿にのせ、祖母がやって来た。

 「集中するのはいいけど、お腹がすいたろ? 一緒に食べよう…へえ若戸大橋? 箸で橋か。上手だね」
 「ありがと! もう少しで完成なんだけど…ちょっとこまってるんだ」
 おにぎりにぱくつきながら答えた。


「何に困ってるの?」
「はしと竹ひごは木工用ボンドでついたんだけど、つまようじがとれちゃうんだ〜せっちゃくする面せきがせまいから…」
「それならいい方法があるよ」
「え? どんな?」
祖母はニコニコしながらおにぎりを手にするとそこから米粒を一つ取り指先で練った。それを爪楊枝につけ割り箸に押し付けると見事にくっついた。

 「おばあちゃん、すごい! これでいけるよ!」
 「私が小さい頃はのりがないときはこうやって米粒をよく使ったもんだよ。あ、一つお話を思い出した。聞くかい?」
 「聞く聞く!」
 「じゃあ先におにぎりを食べてしまおうね」
 「うん!」と慌てておにぎりの残りを口に放り込んだ。
 「これは私のおばあさんから聞いたお話だよ」

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 時代は江戸の初め。
 農作物の収穫増を図れという幕府の要請に従い、岡山藩でもあちこちで開墾が進められた。
 昔から大切に祀られてきた楠に守られた小さな塚も例外ではなく、取り壊されることになった。
 村人たちは大変恐れたが、幕府の意向に嫌も応もなかった。
 塚の側に住み代々塚守りを務めてきた家の娘・菊はとても悲しんだ。
 そんな思いも虚しく、塚はバラバラ、楠も切り倒され全て燃された。

 菊はせめてもと、燃え残ったほんの少しの楠を持ち帰り二十本ばかりの爪楊枝を作った。
 その夜から怪異が起こり始めた。
 塚のあった場所に青い火がいくつも漂い始め、「やれうれしやうれしや」という声が聞こえる、。
 城から数人の侍が泊まりがけで調べに来たが翌朝には皆行方が知れなくなってしまった。
 祟りに違いないと噂が立ち、立ち寄る者はいなくなった。

 それからひと月。

 菊が寝ていると何か大きなモノが庭を這いずる音がする。
 全身が危機を告げ起き上がろうとしたが体が動かない。
 戸が開く音がする。
 廊下をズルズルと這いずる音が近づいてくる。
 音が止まると襖がゆっくりと開いた。
 信じられないほど大きい虎柄の土蜘蛛がのそりと入ってきた。
 「ようもようも長きに渡り我を封じてくれたのう。主の一族、根絶やしにしてくれようぞ」

 「もうだめだ」菊が目をつぶったその時、時の声が上がった!
 何処から現れたのか大勢の小さな鎧武者たちが土蜘蛛に向かって行く。
 弾き飛ばされ、叩き潰されながらも怯まない。
 半刻(約1時間)ほどの激しい闘いの末、ついに土蜘蛛が動かなくなった。
 小さな武者たちもそのほとんどが倒れ、残った数人もフッと消えてしまった。

 ようやく体が動くようになった菊が見ると七尺あまり(約2m)もある土蜘蛛の死骸が転がっていた。
 すべての目が潰されていた。
 その周りには折れたり千切れたりした爪楊枝が散らばっていた。
 菊が作った爪楊枝だった。

 お城にこの話を伝えると開墾は取りやめとなり、土蜘蛛を封じた新しい塚ができた。
 菊はその横に小さな祠を造り、爪楊枝を祀った。
 楠の切り株からはもう新芽が顔を出していた。

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 「楠が土蜘蛛が出てこないように押さえつけていたんだね」
 「つまようじになっても戦うってすごいね」
 「爪楊枝が武者や侍に変化したものは『ちんちん小袴(こばかま)』『ちいちい袴(ばかま)』って呼ばれ、それに関するお話は日本のあちこちに伝わっているよ」
 「へえ! ボクも材料をむだにしないようにするよ」
 それを聞いた祖母は頭をなでてくれた。

 そのとき作った若戸大橋はとても良い評価をもらい、学校に収蔵されることになった。
 これも祖母のおかげである。

チョコ太郎より

 いつもお読みいただき、ありがとうございます。「續・祖母が語った不思議な話」も早いもので残すところあと2話となりました。ご希望や感想、「こんな話が読みたい」「こんな妖怪の話が聞きたい」「こんな話を知っている」といった声をお聞かせいただけるとラストスパートのモチベーションアップになりますので、ぜひぜひ下記フォームにお寄せください

※この記事内容は公開日時点での情報です。

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