息子は小学4年生のとき、市のコミュニティバスで通学していました。田舎のため本数は朝3本、夕方3本と少ないのですが、市内の各地区を一周するバスが走っていて、学生やお年寄りの重要な足となっています。しかしある日、バスに乗ったはずの息子が突然「消えた」のです!
バス通学の息子が帰ってこない!
仕事が終わり、帰ろうとしていた夕方5時頃。その日家にいた夫から、突然電話がかかってきました。勤務中の電話はめずらしく不思議に思いながら出ると、とてもあわてた様子で
「バスの時間が過ぎているのに〇〇(息子)が帰ってこない!」と言うのです。
息子は、最寄りのバス停に夕方の3時半か4時半に到着するバスで帰ってきます。最終の5時半に着くバスで帰ることは、今まで一度もありませんでした。バス停から家までは歩いて3分ほどなので、4時半に着くバスだとしても、5時に帰っていないのはありえません。
友だちがバスを降りた後、息子が消えた!?
連れ去り? 家出? 神隠し? 不安が一挙に押し寄せ、私はパニックになりました。でもすぐに「あわてているだけでは何の解決にもならない、できることをやらなければ」と自分に言い聞かせ、冷静になろうと努めました。
「いつも一緒に帰る、3つ手前のバス停で降りるケンちゃんの家に電話して、それから市役所にも連絡してみるね」と告げ、夫と同居の義父母には、引き続き自宅周辺を探してもらうことに。
ケンちゃんはすでに帰っていて、
「4時半に着くバスに一緒に乗って、バイバイして僕は先に降りたよ」と教えてくれました。電話を代わったおばあちゃんもとても心配してくれました。「4時半のバスには乗っていた」という大きな手掛かりがつかめました。
次にスマホで市役所の電話番号を調べると、なんと閉庁時間まであと3分! 焦って電話するとギリギリセーフ、担当部署に繋いでくれました。
「運行中は運転手さんに連絡できないので、申し訳ない。ただ、おそらくバスは次の周回に入っていて、もしかするとまだ乗っているかもしれない」と言われました。
「息子がバスに乗っているかもしれない!」一筋の光が見えました。
大捜索の末、後ろ姿を発見
「頼む、乗っていてくれ」祈るような気持ちで夫に連絡すると、
「よし、わかった!」
と言って、すぐさま車でバスのルートを追ってくれることになりました。
私も仕事を切り上げ、急いで車を走らせていると、夫から電話が。
「今、目の前をバスが走っているんだけど、一番うしろの席にランドセルっぽいのを背負った小さい影がいて、あれ、絶対にそう!」安堵と笑いが混じった声が聞こえてきました。
「ほんとうに!?」全身の力が抜けていくようでした。
大冒険から息子が帰宅!
私が家に着くと息子はもう帰っていて、夫や同居の義父母からは
「何も言わないであげて」と言われました。
聞けば、夫がバス停で息子を待ち構えて叱ろうとしたら、今にも泣きそうな顔で降りてきたので何も言えなくなり
「遅かったな、心配したぞ」とだけ声をかけ、すっかり暗くなった道を帰ってきたそうです。
翌日息子に聞くと、友達と別れてから寝てしまい、気がつくとぜんぜん知らないところを走っていて、しばらく一人きりに。途中から高校生のお兄ちゃんたちがたくさん乗ってきて、こわくて外を見ていると、いつも行くスーパーが見えたので嬉しくなったそうです。
そのうち見慣れた景色になっていき、いつものルートに入ったので安心した… のもつかの間、後ろを見るとパパの車が来ているのがわかって「怒られる」と思ったそうです。
そんな息子も今では高2になり反抗期真っ只中。どうやら楽しくやっているようです。
自分の世界を広げていく子どもを、四六時中ずっと見張るわけにはいかないもの。「アクシデントが起こったときにどうするか」をふだんから家族で話し合っておくのが大事だと、痛感した出来事でした。
(ファンファン福岡公式ライター / 柴田真千子)