明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」第2シーズンも今回が最終話です。
「祖母が語った不思議な話」正編から4年間続けて来たこの連載もいよいよ今回で終わり。
これまで書いてきたお話を読み返そうと第一話のページを開いたとき、ずっと忘れていたある出来事が唐突に甦った。
あれは確か、中学に上がる前の年の冬休みのことだった。
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母と二人、冬の大分県にいた。
故郷に住む祖父が腰を傷めたための帰郷だった。
往診に来てくれた医師は「単なるぎっくり腰だから心配しなくても良いが治るには時間が経つのを待つしかない。必要なら腰サポーター(今で言うところのコルセット)を渡すから病院に取りに来なさい」と告げると去って行った。
「僕が行って来るよ!」
治るまでずっと寝ているわけにもいかないだろうと、受け取りに行くことにした。
「ありがとう。おじいちゃんを診てるから助かるわ」と母。
歩いて20分ほどのところにある病院で腰サポーターを受け取った。
その頃の冬は今よりもずっと寒く、夕日に染まる海から吹き付ける風(母の故郷は漁師町だった)が追い打ちをかける。
家まであと半分という公園を足早に通り過ぎようとしたとき、名前を呼ばれた。
母だった。
セーター一枚でサンダル履き…この寒いのに? よく見ると服は汚れ、肘を擦りむいている。
「どうしたの?」
「不思議な…とても不思議なことがあったの…」
帰る道すがら、母は次のように語った。
「あなたが家を出たあと、なんだかとても胸騒ぎがしたの。私がそわそわしているのが分かったのか、おじいちゃんは『気になることがあるのなら行ってこい。儂は大丈夫だから』と言う。気が付いたら着の身着のまま走り出していてね。ここまで来たとき、10mくらい先の道の真ん中に今どき珍しい着物姿の女の子がしゃがんでいたのよ。『そこは危ないわよ』って声をかけたんだけど聞こえていないのか動かない。そのとき向こうから大きな黒いダンプがすごいスピードで走って来たの。『危ない!』と思ったときにはもう走り出していて、女の子を抱えて公園の中に飛び込んだの。間一髪、ダンプが猛スピードで走り抜けて行ったのを見送って起き上がったら…女の子がいなくなっていたのよ」
家に戻りこの話をすると祖父が言った。
「あの角の公園、昔は神社さんだったな。だいぶ前に場所を移したので知る人も少なかろうが」
「ふ〜ん。その女の子はどこに消えたんだろう?」
「さあな。それこそ神のみぞ知るってやつだな」
そんな話をしていると台所から母の作る魚の煮付けのいい匂いが漂ってきた。
それから数日、家に戻る電車の中で母が耳打ちしてきた。
「女の子の話は誰にもしないでね」
「えっ? なぜ?」
「うーん。なんとなく」
「なんだか分からないけど…分かったよ」
母は片目をつぶった。
下手なウインクだった。
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母が助けた「女の子の話」と、ずっと前に祖母が聞かせてくれた「魔に行き遭ったが不思議な力に助けられた話」(連載第一話)…場所も季節も時代も違うが、同じ不思議の表裏だったのではないだろうか?
二人ともこの世から卒業した今となっては確認のしようもないが、筆者はそう信じたい。
チョコ太郎より
「百物語において百話語ると怪しいことが起こる」…昔からそう伝えられています。
2年間に渡り連載してきた「續・祖母が語った不思議な話」もこのしきたりを守り、99話で一旦幕引きといたします。
これまで読んでくださった皆様には私チョコ太郎はもちろん、祖母と母もきっと空の上から感謝していることと思います。
皆さんからいただいたコメントやメッセージにもいつも励まされました。「べろ」と「ば〜」に名前をつけてくださったのもとても嬉しかったです。
この連載の感想や「まだまだこんな話が読みたい」「書籍化希望」「早く次の連載を!」といったご意見・ご要望・メッセージをお聞かせいただけると新しい取り組みに向け筆者も重い腰を上げますので、ぜひ下記フォームにお寄せください。
最後になりますが、長い間お読みいただき本当にありがとうございました!