フランスにもある幼稚園の遠足。個性を尊ぶ国らしく、担任の先生によって行き先も行動計画もまちまち。遠足によっては子どもうけのよい企画もあり、そうでない企画もあります。先生の性格や興味が顕著にあらわれる、フランスの幼稚園遠足の思い出をご紹介します。
フランスの幼稚園でも遠足!

フランスで生活するわが家には娘が1人。娘を通して、フランスの教育システムへの理解が深まりつつあるのですが、自由と個性を尊ぶこの国では、学校の先生も自由で個性的です。メイクばっちりピンヒールの先生もいれば、文化活動や政治活動に熱心な先生も。そして、遠足こそが、まさに「先生の個性」が発揮される場なのです。
幼稚園や小学校では、担任の先生によって子ども達が体験し学ぶことにバラつきがあるようで、校外学習やバス遠足の内容もクラスごとにそれぞれ。唯一の共通事項は、先生とアシスタントが引率し、保護者のボランティア数人が同行するということだけです。
年長組の担任は、50代の大ベテラン。大きな声で豪快な雰囲気の女性の先生ですが、授業は厳しいので子どもたちからの人気は今ひとつ。
この先生、歴史や地域文化に造詣が深く、校外学習や遠足にも「アカデミック」な要素がたっぷり。美術館で近世絵画を研究したり、博物館で古代人の生活を学んだり、幼稚園とは思えない企画ばかりでした。テーマパークや動物園などの行き先が多いなか、学年末のバス遠足も、もちろん「学び」系。もらってきた案内には、「古代の温泉洞窟とチーズ博物館見学」とありました。
遠足の計画はフランス流で

この遠足、いかにも先生らしい企画だったのですが、内容が幼稚園児には難しすぎたようです。
最初に訪れたのが、古代ローマ人の温泉跡と言われる洞窟。温泉成分が固まって鍾乳洞になった神秘的な洞窟を歩く、解説付きツアーでした。
次は、地元名産チーズの博物館。チーズの製造工程の展示やビデオを見るというものです。大人には興味深い内容ですが、子ども達はポカン。全くピンとこない様子でした。
そして、遠足の計画自体がとてもアバウトで、それがほほえましい一方で、驚いたことも2つありました。
(1)事前に調べていない
年長児を30名連れての遠足なのに、行程中トイレ休憩場所がなし! 洞窟でも博物館でも見学者用トイレがなく、ようやくお昼に立ち寄った教会の庭に男女1ヶ所だけ。子どもたちはもちろん長蛇の列で大騒ぎでした。
(2)人数を計算していない
ボランティアを募集しつつも、出発前日に
「バスには保護者の席がありません。各自で行ってください」とのお知らせ(山越えの遠足に、自分で足を確保? なぜ事前に言わないの?)。通常、ボランティアはバスに同乗するはずなので慌てました。
子どもたちの感想はどうだった?

とはいえ、ゆるい計画だからこそのメリットも!
時間の計画がアバウトだったため、午後の予定がぽっかり空いてしまい、洞窟近くの公園に行くことになりました。先生が
「子どもたちは私が見ておきますから、お母さんがたはお茶でもどうぞ」と言ってくださり、保護者仲間とティータイム。ゆっくりおしゃべりができて楽しかったです。
とても文化的な遠足の企画でしたが、後日、子どもたちに感想を聞いてみました。
「洞窟がよくわからなかった」
「楽しくなかった」
「公園で遊べたのは面白かった」
どれも、先生の「アカデミックな経験を」という意図をまったくわかっていない答え。よかったのは時間調整の公園という感想でした…。
幼稚園の遠足にも見えるフランス人らしさ
日本の幼稚園遠足は、綿密な計画のもと予定通りに進みます。「行き当たりばったりでビックリ」がなくて安心ですよね。
いっぽうフランスの遠足は、全体的に時間にも決まりにもおおらか。服装も自由、少々時間が前後してもOK。フランス人の「細かいことにこだわらず、臨機応変にその場を楽しむ」文化を、子ども達もこうやって身につけていくのかなと思います。
遠足は、「その先生らしさ」があらわれるイベント。演劇好きの先生は劇場ツアーを、動物好きの先生は牧場で餌やりを… という具合です。親としては、ボランティアを通じて先生がたの興味や人柄にふれ、毎回とても面白い経験をさせていただき感謝しています。
(ファンファン福岡公式ライター/吉野まのん)


