菓子屋から文化屋へ進化する老舗「石村萬盛堂」が放つ新感覚マシュマロ「繭まろ」とは

福岡で暮らす方なら、一度は目にしたことがある菓子店「石村萬盛堂」。鶴が描かれたパッケージが目印の「銘菓 鶴乃子」をはじめ、福岡土産の定番ともいえる多様な和洋菓子を生み出してきました。そんな石村萬盛堂から、今夏新たに誕生したのがワンランク上のマシュマロ菓子「繭まろ」です。博多織物の老舗店「西村織物」とコラボレーションして生まれた、新しい福岡銘菓の魅力をライターの戸田千文さんが副社長の石村慎悟さんに教えていただきました。

目次

ホワイトデーのルーツも!? 福岡を代表する老舗菓子店「石村萬盛堂」

「石村萬盛堂」は、福岡を代表する菓子店の一つ。1905年の創業当時は、日本の三代銘菓に名前が挙がる「鶏卵素麺」やカステラなど、菓子を中心に扱っていました。

博多で100年以上愛され続ける銘菓「鶴乃子」。ふくよかな生地の中に風味のよい黄味あん。
甘さをおさえたまろやかな味わいが特徴です。鶴乃子 20個入(2,650円)、7個入り(940円)

その後、誕生したのが「銘菓 鶴乃子」。鶏卵素麺の製造過程で余ってしまう卵白をなんとかしたいとの思いで生まれたものです。

さらに1978年にはバレンタインのお返しとして、3月14日に男性から女性へマシュマロを贈る「マシュマロデー」を提案。

日本のホワイトデーは、石村萬盛堂からはじまったのです。

ホワイトデー発祥のお店というだけあって、定番の味から期間限定の味まで、
常に8種類ほどのマシュマロが販売されている。マシュマロ各種 5個袋入(324円)

新しいアイデアを柔軟に取り入れて、挑戦し続けることで福岡のまちに愛されてきた石村萬盛堂。そのチャレンジ精神は今も失われることなく、脈々と受け継がれています。

そのほか、定番人気の塩豆大福は、素材から徹底的にこだわり抜かれた逸品。
ほどよい甘さと、赤えんどう豆の塩味との絶妙なバランスは、何度食べても飽きのこない味わいです。
塩豆大福 10個入(1,570円)、6個入り(950円)

2021年夏に本店をリニューアル。気になる新商品も続々登場

創業115周年を迎えた2021年夏には、博多区須崎町にある本店をリニューアルしました。ガラス張りの店舗の目印は、大きな白い暖簾。思わずふふっと笑みがもれる愛らしいイラストが描かれています。山笠の廻り止めの横にある本店は、これまで追い山のタイム計測所として活躍していました。

リニューアル後もこれまでと変わらない位置に計測所が。実際に登ってみることはできませんが、山笠の風情が感じとれ、ワクワクしてきます。店内は、木目調の明るく開放的なつくり。定番はもちろん本店でしか買えないここならではのスイーツ「つるのこのこ」が販売され、SNSで話題を呼んでいます。

石村さん:「人懐っこくて、あけっぴろげ。そんな無邪気な博多っ子をイメージしています。こちらでは、本店でしか食べられないスイーツとして「つるのこのこ」をご用意。

鶴乃子に使われるマシュマロをアレンジしてつくられた「つるのこのこ」(750円)

マシュマロの土台にカスタードクリームとアイスクリームを重ね、ふわっふわの生マシュマロをのせた新感覚スイーツです。フワッフワっプルンプルンの食感は出来立てのマシュマロだからこそ。ぜひたくさんの方に味わっていただきたいですね。本店だけでお召し上がりいただけます。

祝うてサンド 8個入(2,160円)、6個入り(1,620円)、4個入り(1,080円)、2個入り(540円)

また本店以外でも購入できる福岡限定土産としてこの夏登場したのが「祝うてサンド」です。山笠やおめでたい席などで欠かせない博多手一本をモチーフしたスイーツで、キャラメリゼしたクルミとキャラメルクリームをかわいい手形のクッキーでサンド。食べるときに出る小気味良い歯ざわりは、「シャンシャン」という博多手一本をイメージしています。」

ーーーーーー店舗情報ーーーーーー
石村萬盛堂 本店
住所:福岡県福岡市博多区須崎町2-1
電話番号:092-291-1592
営業時間:9:00 – 18:00
▽公式オンラインストア
https://www.ishimura.co.jp/shop/
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博多の文化や伝統のストーリーを、菓子にまとわせる「文化屋」に

お菓子を通して、“博多の文化”を届けることも大切にしている石村萬盛堂。そのひとつとして開発されたのが祝うてサンドなのだそうです。

石村さん:「私たちはただお菓子を作って売るだけじゃない。福岡の人に愛されて支えられてきたことを、特にコロナ禍はひしひしと感じています。そんな地元を裏切れません。私たちの原点は、福岡、博多にある。

だからこそ、お菓子を通して博多の文化を伝えて行くことが大切だと考えているんです。福岡の文化や伝統、そこにあるストーリーをお菓子にまとわせていきたい。菓子屋ではなく、文化屋を目指しています。それが、福岡で生まれ育ってきた当社のミッションです。」

そして、この夏、そんな石村萬盛堂“らしさ”が詰まった商品が新たに誕生しました。

博多織の老舗「西村織物」と共同開発した「繭まろ」

「繭まろ」は、創業160年を迎える博多織最古の織元「西村織物」と石村萬盛堂がコラボした新商品です。光沢が美しい正絹の博多織を開くと、中からは個包装されたふわふわのマシュマロが。

まるで赤ちゃんの柔肌のようなもっちりとしたなめらかさを感じるマシュマロには、シルクフィブロインと呼ばれる“食べるシルク”が使われています。福岡で歴史を紡いできた2つの百年企業のコラボレーションのきっかけは何だったのでしょうか。

石村さん:「繭まろ」誕生のきっかけは、西村織物さんからのお声がけです。新型コロナウイルス感染症の影響で、博多織の生産が落ちてしまったそうなのですが、せっかくなら今、新しいことをやってみようと企画会議をされたそうです。

その会議の場で、西村織物の社員の方が注目したのがシルクを食用できるように加工したシルクフィブロインです。シルクから蚕や繭玉をイメージしたときマシュマロにたどり着いたそうで、当社にお声がけいただきました。

お互いに福岡で長く商売をしていますが、実はこれまでご一緒する機会はなかったんです。そこで、お声かけいただいたあと、実際に西村織物さんの機織り工場を見学させてもらいました。

それが本当に素晴らしかった!機織り機は昔からのものがそのまま残っていて、とてもクラシックな現場で、とても美しかったんです。

一度、皆さんにも見ていただきたいくらい。その現場を見て、心動かされて、新企画はすぐに一緒にやりたいとお返事しました。」

正絹の美しい博多織に包まれた、ワンランク上のマシュマロ

こうして始まった「繭まろ」の開発。“絹を食べる”というのは、消費者にとってはイメージしにくいのですが、シルクフィブロインという聞きなれない素材を使うことに抵抗はなかったのでしょうか。

石村さん:「もちろん、最初は戸惑いもありました。シルクフィブロインは私たちにとっても初めての食材。はじめ見たときは「なんだこれは」っていうのが正直な気持ちでした(笑)。

無味無臭だったので、まずはいつも通りのレシピに混ぜてマシュマロを作ってみたんです。これが驚くことにピタッとハマった!生地がシルキーというか…口触りがとてもいいんです。ぽよんとしたやわらかな弾力で、これまでのマシュマロのワンランク上を行ったという手応えを感じました。

結果、繭まろでは試作品をあと1回作っただけ。たった2回の試作品で商品が出来上がるなんて滅多にないことです。

商品を包むのは、西村織物さんによる絹100%の博多織です。高級ブランドで使われるシルクと同ランクのものを使用していて品質は抜群。博多織と厚手でしっかりした生地のイメージがありますが、今回は薄手に仕上げていることで、小物入れやご祝儀を包むふくさなど、さまざまな使い方ができるように工夫しています。

日常の中で気軽に使っていただけるような具体的な使い方が提案されています。
このほか、アクセサリー入れなどとして使用するのもおすすめ

博多織は使うたびに美しさが光ると思います。使い方の事例をまとめたものも一緒に入っているので、ぜひいろんなシーンで使っていただきたいですね。

柄は「羽形乃鶴」と「博多三階松」の2種類を用意していただきました。羽形乃鶴は、博多の古い地図を上から見たときに、羽を広げた鶴のように見えることがモチーフとされています。

一方、松の菓子型を元にデザインしたのが博多三階松です。鶴と松、どちらもめでたい柄でお祝いの席にピッタリ。海外へのお客さまへのギフトにもおすすめです。」

繭まろは、マシュマロにしては珍しい杏仁風味。食べると中からミルク風クリームがあふれ、甘く優しい香りが広がります。上品で一つ一つ大切に食べたくなる味。アレンジするより、シンプルにそのまま素材の味を楽しんでいただきたい逸品です。

また「暑い日は、冷凍庫に入れて冷やして食べるのがおすすめですよ」と石村さん。これまでの常識を変えるワンランク上のマシュマロ「繭まろ」をぜひ、試してみてくださいね。

伝統工芸にPRの機会を作りたいと、クラウドファンディングに挑戦

商品作りに励む一方、クラウドファンディングを利用して支援を呼びかけました。プロジェクトが紹介されるサイトを見ると、写真や動画で繭まろの魅力が紹介されているだけでなく、石村萬盛堂、西村織物、それぞれの企業の歴史や商品作りへの思いを垣間見ることができます。

石村さん:「クラウドファンディングは、開発資金を集めるためではなく、より多くの人に異色のコラボを知ってもらいたいという思いで挑戦しました。当社のように、菓子類であれば定期的にPRの機会をいただくこともあるのですが、博多織物のような伝統工芸はそういった機会がとても少ないんです。だからこそ、多くの人に知ってもらう場を設けることが大切。

博多織を全国に広める機会として、クラウドファンディングを利用しました。店頭だと、限られた人にしか見てもらえないけれど、ネットだと全国各地の人に知ってもらえて、感度が高い方々に知ってもらえる機会ができると考えたんです。

博多織って、どうしても敷居が高いイメージがありますよね。でも繭まろのパッケージとして開発した商品は、高品質ながら手軽に使えるよう工夫されたもの。ビギナー商品としてぴったりなので、クラウドファンディングのページ上でも、触り心地や使い方の事例などを多く紹介しています。」

完成した「繭まろ」は、9月の上旬、クラウドファンディングの支援者の元へと届けられました。「反響はこれから」と石村さんは話しますが、その表情からは確かな自信が感じられます。

創業からこれまで、老舗の看板におごることなく、ひたむきに挑戦を続けてきた石村萬盛堂。「文化屋を目指す」と石村さんがおっしゃる通り、日本三代織物の一つとして長い歴史を紡いできた博多織物とコラボした「繭まろ」は、まさに文化をまとうお菓子です。

博多織は知っているけど、高価なイメージで敷居が高いという方も、マシュマロとセットの「繭まろ」なら気負い過ぎることはありません。質が確かなアイテムをカジュアルに楽しめる、粋なプレゼントとしてぜひ大切な方へ贈ってみてはいかがでしょう。

■石村萬盛堂
明治38年創業、ホワイトデー発祥のお店としても知られる石村萬盛堂。銘菓『鶴乃子』をはじめとする博多で100年以上愛され続ける老舗です。
https://www.ishimura.co.jp/

文=戸田 千文

※この記事内容は公開日時点での情報です。

著者情報

成長する地方都市 #福岡 のリアルな姿を届けます。福岡のまちやひと、ビジネス、経済に焦点をあて、多彩なライター陣が独自の視点で深掘り。 「フクリパ」は「FUKUOKA leap up」の略。 福岡で起こっている、現象を知り、未来を想像し、思いをめぐらせる。 飛躍するまちの姿を感じることができると思います。 https://fukuoka-leapup.jp

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