私には2人の子どもがいます。上の子が小学校に入るのを機に子育てのしやすいエリアに引っ越しました。 当時の私は37歳、小学1年生になった娘の初めての授業参観日での出来事でした。
ほんわかムードの参観日

教室にはピカピカのランドセルがずらりと並び、ちょこんと座る子どもたちの姿に思わず目を細めました。まだ緊張気味のわが子を見つけて手を振ると、恥ずかしそうに笑ってくれたあの表情を今でも忘れられません。
授業はあっという間に終わり、そのまま教室の後ろに椅子を並べて懇談会へ。先生が
「せっかくですので、みなさん簡単に自己紹介をお願いします」と声をかけました。順番に保護者が名乗り、子どもの名前や家庭で気をつけていることなどを話していきます。
あるママが
「今年で38歳になりまして… 体力的に子どもに追いつくのが大変です」と笑うと、教室は
「わかります〜!」と和やかな笑いに包まれました。
自然な流れで何人かのママが年齢にも軽く触れながら話すように。年齢を言うこと自体、ちょっとしたネタのようになっていて「私も同じ歳です」なんて声も飛び交っていました。
場が凍りつく若ママの発言

そんな中まつ毛バッサバサのメイク、高校生のような服装から、若いんだろうな…と思って見ていたママが自己紹介。
「25歳ですぅ。高校を卒業してすぐ結婚しましたぁ。〇〇(名前)くんのママで~す。分かんないこと色々教えてくださ~い」
言葉づかいにはびっくりしましたが、表情やちょこんとお辞儀をする仕草が素直な感じで好感を持ちました。和やかに進み教室の空気がゆるんだ終盤、自己紹介を始めたのは落ち着いた雰囲気のママ。
声も柔らかく穏やかに話していましたが、ふとした流れで年齢にも触れました。
「今年で45歳になります。まだまだ体力には自信があるんですけどね」と、笑いながら。その瞬間、あの若いママが思わずといった様子でこうつぶやいたのです。
「えぇ〜! うちのママと同い年!」一瞬、時間が止まったようでした。
誰もが固まる中
「そっかぁ…」とだけつぶやいたそのママの顔は、笑っているようで引きつっていました。若いママに年の近いママたちは視線を宙にさまよわせ、年上ママに年の近いママたちは恥ずかしそうにうつむいたり、怒りの表情を浮かべて若いママを見たり…。
教室全体がどう反応していいかわからない空気に包まれました。懇談会の多くの参加者が「口に出すな」と思ったはずです。若いママと年上ママの間で微妙な距離感が生まれ始め、何となくピリピリした空気が流れました。
教室に残った空気と心の学び

私は何も言えず無に徹しましたが、心の中では「真ん中くらいの年でよかった」と思ったのでした。若いママは、決して悪意があったわけではありません。恐らく、素直な驚きをそのまま口にしただけ。けれどその無邪気さが周囲に与えた衝撃は計り知れませんでした。
先生もすぐには口を開けず、しばらく教室には微妙な静寂が流れました。
「で、では、次に連絡事項を…」と、先生が話題を切り替えて、懇談会はそのまま続行。なんとか空気は持ち直しましたが、あのヒヤッとした感覚は今でもはっきり覚えています。
懇談会終了後に交わす「お疲れ様でした」の声は、皆ぎこちなくてよそよそしい感じ。このメンバーでPTA活動なんてできるの? と密かにおびえながら教室を後にしました。子どものお母さん、お父さんたちには、幅広い年齢層の人がいます。誰かを傷つけないためにも、参観日のような集まりでの発言には気をつけないといけないと痛感した出来事でした。
(ファンファン福岡公式ライター/蕗野薹子)


