長男、二男と続いて少し年の離れた三男が誕生したばかりの頃、夫に突如転勤が言い渡されました。長男はやっと小学校中学年、二男はあと1年で卒園。家族全員で引っ越すか、単身赴任にするか… 悩んだわが家の選択とは?
突然届いた悲劇の知らせ

ただでさえ慌ただしい年度末。わが家には新しい命が誕生したばかりでした。
生まれたばかりの赤ちゃんを抱えながら、新学期の準備もすすめなくてはなりません。学校、幼稚園、習い事、提出書類に確定申告。まさに目の回るような忙しさでした。それでもなんとかなっていたのは、夫が在宅勤務だったから。私は新生児のお世話に集中し、それ以外の家事は夫に託していました。
ところが3月に入ったばかりのある日、三男の授乳をしていると夫が部屋に飛び込んできました。
「大変だ…! 転勤辞令が出た!」
答えの出ない問い

夫の転勤先は国内ではありましたが、とても自宅からは通えない距離。
そこで私たち家族に与えられた選択肢は2つ。家族全員で転勤先についていく「帯同」か、夫だけ転勤してもらう「単身赴任」か…。どちらを選んだって簡単ではありません。
家族全員で引っ越しとなると、たったの1カ月で新居を探して、新しい学校に連絡をして転校準備をしなくてはなりません。幼稚園も残り1年間だけ転園することになります。そんなことが可能なのでしょうか?
しかし、もしも単身赴任を選んだとしたら、赤ちゃんを抱えて私1人で三人兄弟を見ることになります。小学生と幼稚園児と赤ちゃん、しかも全員男児を1人で…? 無理無理! 想像するだけでもぞっとします。
選びたくない。そう思いながらも時間だけが過ぎていきました。
選択の時

どんなに嫌でもどちらかは選ばなくてはなりません。何を重要視するか、夫婦で毎日話し合いました。
最終決定をしなくてはいけない日。決めました。わが家が選んだ選択は「単身赴任」です。
二男を長く通い慣れている幼稚園で卒園させてあげたい、新しい環境に馴染むのが苦手な長男はできるだけ今のまま環境を変えたくない、そう考えてのことでした。
シルバー人材センターやファミリーサポートといった外部サービスに登録し、できるだけ家事の負担を減らすことにしました。夫は1人で引っ越しの準備をし、バタバタと慌ただしく転居していきました。
4月1日のことでした。
戦いの始まり

それからの毎日はもう、思い出せないほどにめちゃくちゃでした。
散らかった部屋、まともに作ることのできない料理、お風呂も子どもたち全員を1人で入れなくてはなりません。手伝ってくれる人もいないので、カーテンを閉め切った部屋の中を何度裸で走り回ったか分かりません。
「帯同にすればよかった!」と後悔することもしばしば…。子どもたちのためを思って選んだ単身赴任でしたが、パパっ子だった二男は不安定になってしまい、私も赤ちゃんのお世話でサポートしてあげることもできませんでした。休日には自宅に戻ってきて家事や子どもたちと遊ぶ時間を作ってくれる夫ですが、たったの2日でまた転勤先へと戻っていきます。
そんな日々を2年半。三人兄弟と一緒に何度も涙を流しながら、やっと2年半が経ちました。二男は晴れて卒園し、この春には小学2年生になりました。生まれたばかりだった三男はもう、階段を1人で上り下りできるくらい大きくなりました。単身赴任終了まで、あと数カ月です。
振り返ってみれば人生でも1位か2位に入るくらい強烈な2年半でした。夫もあと数カ月もすれば家族の元に帰ってきて、一緒に夕飯が食べられるようになります。三男は「パパはどうしてずっと家にいるんだろう?」なんて思うのかもしれません。
ある日突然転勤の知らせが届いたら? 「帯同」か「単身赴任」か、それぞれのご家庭の数だけ選択肢があると思います。きっとどちらを選んでも苦難は訪れるでしょう。だけど涙を流しながらでも、いつか終わる日を願って乗り越えていけたなら。
ずっと年老いてから「あの時は大変だったよね」と笑いあえる日がくると信じています。
(ファンファン福岡公式ライター/本田すのう)


