真冬の寒さから一転、すっかり暖かくなり、新緑がまぶしい季節になりました。そんな季節に私が思い出す新入社員時代の話です。
憧れの社会人

数年前の4月1日、ピカピカのスーツを着た私は東京駅に立っていました。家の間取りを見ることが好きだった私は不動産会社へ入社。賃貸仲介の仕事に関わることになったのです。入社式を無事に済ませ、次の日からは研修とのこと。同期と軽い飲み会を楽しみ、次の日の研修に備えるため早めに解散しました。
翌日、研修会場は新宿駅。神奈川県に住んでいた私は東京に出ることが少なく、新宿駅が複雑だということも就活を始めてから知りました。迷子になって遅刻をするわけにはいかないと、電車の時刻表をチェック、予定より30分早く到着するよう出発しました。
研修会場へ辿り着けない?

新宿駅に向かうまでの乗り換えをするため、途中駅でホームを移動します。階段を下り、5分後に到着の電車に乗れば無事に新宿に到着します。順調、順調、と心の中で呟いたその時。後ろから猛スピードで階段を下ってくる集団に押し除けられ躓いてしまいました。
その集団は自分が乗る電車の向かいの電車に、ちょうど発車するところで駆け込みます。さすが東京。通勤は戦のようだと思った瞬間、自分の手にパスケースがないことに気がつきました。必死に足元を探しますが、階段で止まれるわけもなく波に流され下まで下りてしまいました。
救ってくれたのは…

当然下からは上の階段の様子がわかるはずもなく心臓の音がバクバクと不安を掻き立てます。駅を出られない? 研修初日から遅刻? 緊張とパニックで思わず涙が溢れそうになります。
すると横からトントンと肩を叩かれました。
「どうしたの? 大丈夫?」そう言いながら覗き込んできたのは40代くらいのサラリーマンでした。私はパニックになりながらも
「その階段を下りていたらパスケースを落としてしまって、止まれなくて…」と必死に説明しました。
「パスケース、何色?」
「水色です、リボンのついた」と短い会話をするとサラリーマンは
「そうか、うーんそうだな、みんなに探してもらおう」と言うと階段の方に顔を向けました。
「すみませーん、水色のリボンがついたパスケースが階段に落ちてると思うんです! 足元確認してもらえませんかー!」と大きい声で呼びかけてくれたのです。私も
「お願いします」と頭を下げました。
階段にいた人たちはおやおやといった様子で大勢の人が足元を見回してくれました。そしてしばらくして
「あったぞー!」と私のパスケースが掲げられたのです。水色のリボン付きのパスケースはバケツリレーのごとく、階段を下り私の元へ返ってきました。
「ありがとうございます、ありがとうございます」と誰にでもなく、その場にいた全員に頭を下げました。そしてはじめに助けてくれたサラリーマンに
「今日が初めての研修の日で、本当に助かりました」と言うと
「うん、かっこいいスーツだね。頑張ってね」と颯爽と去っていきました。ちょうど乗ろうとしていた電車が到着し、私は遅れることなく乗車できました。
頑張れ新入社員!

春になるとあの日のことを必ず思い出します。それは素敵な思い出としてもですが、誰かが困っている時に手を差し伸べようという決心でもあります。あのサラリーマンのように。
新しく社会へと飛び出した皆さん、ご入社おめでとうございます。困った時は上司や先輩、仲間、きっと誰かが力になってくれます。皆さんが勇気を持って周囲に助けを求められることを祈っています。
(ファンファン福岡公式ライター/「もずく」)


