私の子どもが通っていた小学校は児童数が少なく、各学年1クラスでした。子どもが小学校3~4年生になると、参観日や保護者会で顔を合わせる保護者も、大体お馴染みのメンバーになってきました。会が終わった後、数人が集まって立ち話をすることが恒例になっていた頃のことです。
楽しく始まったママ友ランチ会

「たまにはゆっくり話したいよね」小学校で子どもたちが仲良くしていることもあり、親同士も顔見知りの仲でした。そんな流れで、参観授業の後にママ友ランチ会をすることに。
私は幹事役を引き受け、学校からもほど近く一枚板の大きなテーブルがありグループでも利用しやすいカフェを予約しました。当日は8人が集まり、明るく開放的な店内でにぎやかなランチタイム。子どもの学校の話、習い事のこと、最近ハマっているドラマや推し活まで、話題は尽きず笑い声が絶えないランチ会となりました。
会計はまとめてスムーズに…

「たまにはこういうの、いいよね」そんな何気ない一言に全員がうなずき、和やかな空気のまま解散時間を迎えました。会計のとき、「まとめて払った方が楽だよね」という流れになり、私が幹事として代表して清算することになりました。
注文はそれぞれ違っていましたが、みんなが自分の分を計算し現金を出してくれました。小銭のやりとりで
「ごめん、10円足りない!」
「誰か100円玉5枚ある?」と笑いながらの両替も、なんだか楽しかったです。
まさかの“足りません”に騒然!

ところがレジでお会計をしたとき、スタッフの女性が申し訳なさそうに言いました。
「すみません、あと900円足りません…。」一瞬、頭が真っ白になりました。
え、数え間違えた? 動揺しながら、もう一度預かったお金を確認しても、払い漏れのお金はありませんでした。振り返ると、会話が聞こえたママ友たちがざわついていました。
「え、900円って誰?」
「誰が払ってないの?」自然と視線がひとりのママに集中しました。
彼女は普段から
「あ! クレジットカードの支払い忘れてた」
「小銭ない。貸して~」なんて言うことが多く、お金に関してちょっとルーズな印象がある人でした。たぶん、私を含めたみんなが心のどこかで「もしかして…」と思ってしまったのだと思います。
その視線に気づいたのか、彼女がムッとした顔で口を開きました。
「え、私ちゃんと払ったよ? ドリンク代も出したし」強めの口調に、その場の空気がぴりつきました。
「ごめん。私、ドリンク代払い忘れてたかも」別のママが謝りながら600円を差し出しました。それでもまだ300円足りなかったので、仕方なく私は自分の財布から300円を出しました。
「後で誰か分かったら返してもらえたらいいし」笑ってみせたけれど、楽しいランチ会の終わりがこんなことになるなんて… と、どっと疲れてしまったのが正直な気持ちでした。まさか自分が幹事のランチ会で、ママ友同士がギスギスした雰囲気になるなんて。
疑われたママのことも気になりますが、もし誤解だったら悪いし… でも本当は? もやもやとした感情が、帰り道も頭を離れませんでした。
真犯人はまさかの…

そのまま買い物に向かい帰宅していると、携帯が鳴りました。表示された番号は、あのカフェのもので、電話口の店員さんは平謝りでした。
「本日のランチ会のお会計に関して、実際の金額は◯◯円でお客様のお支払いできちんと足りておりました。本当に申し訳ありません」私はしばらく言葉が出ませんでした。
足りなかったのではなく、店員さんが注文票を見間違えてレジに入力していたのでした。真犯人はママ友ではなく、レジの入力ミスだったのです。そのお店の注文は、店員さんが注文票に手書きでオーダーを記入し、レシートも合計金額だけが出てくるタイプだったため、支払いのときには気づきませんでした。
安堵とともに、あのときの空気を思い出して、どっと疲れが押し寄せてきました。「やっぱり、あの人が…」というあの瞬間の空気。ママ友の表情、沈黙、ちょっとした視線の鋭さ、どれを思い返しても胸が痛みました。人を疑うって簡単だけど後味が悪い… それを実感した忘れられない一日でした。
(ファンファン福岡公式ライター/蕗野薹子)


