今年も“あいつ”がやってくる! 稲川淳二インタビュー

 稲川淳二さん(74)の全国ツアー「稲川淳二の怪談ナイト」福岡公演が10月8日(金)、ももちパレスホール(福岡市早良区)で開催されます。福岡公演への意気込みや怪談に対する思いについて聞きました。

―29年目の「怪談ナイト」を迎えます。今年のテーマは?

 私は話を考える際に、公演ギリギリまで考えてしまうんです。ぼんやりと輪郭はできているけどどう変化していくかは開幕するまでわかりません。セットを担当してくれるスタッフさんたちも誰も知らないのです(笑)。
 芸能界の大先輩が、すごく古い新聞を送ってくれたのですが、その中に怪談が連載されていました。男性記者の方が自分自身の体験を書かれていて、ものすごく面白かったのですが、なにせ新聞連載。続きはまた明日、の形式で終わってしまって…。昭和20年代の雰囲気が存分に感じられるいい怪談だったんですよ。その当時の、昭和ロマンな空気があった。
 そこで私もそういった、昔ながらの“つやっぽい怪談”を今回用意しようと思っています。昔の怪談は聞いているうちにどんどん怖くなってくるのです。当時のにおいのする話を伝えたいですね。
 私の話を“稲川怪談”と、呼んでもらうことも増えました。怪談はホラーとは違って、怖いだけではなくて優しさがあるんです。ホラーは脅かすだけで成立する恐怖ですから。
 今回のツアーで話す怪談の中にも夜中に45分くらいで書きあがったものがあって、こういうのはね、霊が書かせているんですよ…。

―昨年に引き続き今年もコロナ禍での開催に。怪談の集め方への変化は?

 普段は外を出歩いて、実際にいろいろなものを見て書くのですが、今年も難しいですね。人と話すことで「そういえばこんなこともあったな」と思い出して話を書けたりもするのですが…。落ち着いたら福島県へ伺おうと思っていたのですが、それもかなわなくなってしまって残念です。ただ、自分の中に怪談のかけら、破片はあるので、それをつなぎ合わせて書いています。

―話し方や表情で、心掛けていることなどはありますか。

 いやあ、そんなに特別これといってはないですね。よしんばあったとしても、それは企業秘密(笑)。言えませんね~! ここだけの話、私は皆さんの前で話すときは催眠をかけながら話しているのですよ…。本当ですよ!
 まあでも、怪談っていうのは、どんないい作品であっても構成力なんです。怪談の元になるものがあっても、つなぎ方なのですね。例えば料理人にどれだけいい材料を渡しても、おいしい料理ができるかはその人の腕一つでしょう? ラジオやニュースの読み手さんに、取材などで「ニュースを怖く読む方法などありますか?」と聞かれることもあって、そういう時は“それらしく”読んでみせるのですが、結局雰囲気で読んでいるだけなんです。コツとか技術じゃない。仮にそういう話し方講座みたいなものを私にさせるとすると、高いですよ~5分で2,800円です(笑)。

―お弟子さんはいますか?

 それよく聞かれるのですがいないんですよ~。昔、小学生の子どもさんから手紙をもらったことがあって、「僕は稲川さんの怪談のファンです。でもまだ(年齢的に)ツアーに行けたことがありません。僕のお父さんはツアーに行っているので、その話を家で聴かせてもらっています!」って書いてあって。親子で好きでいてくれるのは、すごくうれしいなと思って読んでいたら、「これは僕のお父さんから聞いた話なのですが、とっても怖い話なのでもしよかったらツアーで使ってください」って書いてあった。それがね、実は以前に私が話した怪談だったんですよ(笑)。
 すごくそれがうれしくて、何がうれしいってね、その話が間違わずに書かれていたことです。私からお父さんへ、お父さんから息子へ、正しく怪談が伝わっている証拠ですね。私が最後の心霊探訪としてあの世に行った後も、私の怪談は残っていくんだと実感できました。そうやって伝えてくれる人がいるならば、特別にお弟子さんはいらないなと思ったんです。

―怪談というとつい夏のイメージを持ってしまうのですが、怪談が生まれやすい、多い季節というのはあるのでしょうか。

 そう! 皆さん夏といえば怪談、みたいなイメージを持たれているんですが、実は冬のものなんですよ、怪談って。夏は明るい季節でしょ、みんな外へ出かけていくし。
 本来、怪談とは雪深い土地で、冬場家の中から出られない時に「じいちゃん、ばあちゃん、あの話して」っていうのから始まったものなんです。その土地にまつわる話をしているうちになんだか怖い話になっているな、っていうもの。神話や民話の延長が怪談です。

―時代が進むにつれ、「怪談」の数に変化はありますか。

 怪談自体は変わらないのではないでしょうか。話し手でいうと、ここ10年くらいになって若い語り手さんも増えてきたなとは思います。ただ、その方たちの話す怪談はちょっと“ホラー”寄りなのかな。「怖がらせるぞ!」っていう感じで、ドキッとする話が多いですね。怪談が持つ優しさや温かさはあまり感じられないかな。
 怪談って、放課後みんなで集まって話す、あの雰囲気丸ごとを指すんじゃないかって思うんです。時代が変わっても、人が集まっているところにある空気感、それが怪談なので、減ることはないでしょうね。怪談は居心地がいい、人と人が寄り添う場所なのです。

―福岡のファンへ一言。

 私は本当に大好きなんですよ、福岡のファンの方々が。毎回早い時間から並んでくれて、楽しみにしてくれている。こうやって声援をいただいているおかげで続けられているので、本当にありがたいです。福岡が本当に大好きなので、私の怪談が一番面白いのも福岡ですよ! 本当ですからね(笑)! 楽しくて怖くて、そんな時間を皆さんとお会いして共有するのが一番の幸せです。会場でお待ちしております。

MYSTERY NIGHT TOUR 2021 稲川淳二の怪談ナイト 

日時:10月8日(金)怪場18:00/怪宴19:00
場所:ももちパレス大ホール(福岡市早良区百道2-3-15)
料金:5,800円(前売り)、6,000円(当日)※税込み
問い合わせ:スリーオクロック
電話:092-732-1688(平日10:00~18:30)

※この記事内容は公開日時点での情報です。

著者情報

好きな物:お酒とエンタメとスポーツ、コスメ。ものづくりと一人旅。好きな動物はカワウソ。好きな物を好きなように書いてみます! 主にインタビュー記事やホークス関係の記事を担当。

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