新居に訪れた義母が引き起こす予測不能な出来事の数々。リアルな心の葛藤がありながら最終的に辿り着いた本音とは?
慣れたと思って油断していた義母の存在

義母は思ったことをすぐ口にする裏表のない人。お菓子を持っていけば「これ好きじゃないの」、花を贈れば「処理が面倒」と顔をしかめます。結婚したばかりの頃は、義母の言葉に何度も傷つけられました。
でもある時気づきました。義母は誰にでも同じ調子なのです。以来、義母とは割り切って接してきました。そんな義母が、私たちの新居にやってくることに。気は重かったものの、過去の経験から少しは耐えられると思っていました。けれど、その思いは一瞬で打ち砕かれたのです…。
そのキャリー、外の汚れ付きですけど…

当日、義母を駅まで迎えに行く主人を見送りながら、私はこの数日間の慌ただしさを思い返していました。引っ越したばかりのわが家は、当然のように散らかり放題。義母の来訪が決まってからは、大急ぎで「扉のあるところ」へと、あらゆる物を押し込んでいきました。
なんとか見える範囲だけ整え、「それっぽく」仕上げました。私はほのかな満足感と、これから訪れるだろう地獄に絶望感を抱きつつ、キッチンで食器を片付けていました。数十分後、鍵の開く音が聞こえました。
あれ? もう旦那戻った? と泡だらけの手を洗っていたら、義母がキャリーケースを引いて颯爽とリビングに入ってきました。突然の義母の登場に、心が硬直しました。ふと床を見ると、謎の黒っぽい線が。その線を辿っていくと… そこには、義母のキャリーケースが鎮座していました。フリーズした心が、そのままシャットダウンしたのは言うまでもありません。
義母の本気炸裂!止まらないルームツアー

主人と楽しげに談笑する二人を横目に、私は無言でキャリーケースのタイヤ痕を拭きます。もちろん義母はそんなことは気にも留めず、ソファでのびのびとくつろぎ中。
私の苛立ちがこもったお茶を平然と飲み干し、しばらくしてから
「ちょっとトイレ」と言って立ち上がりました。その直後、部屋中に響き渡る扉の開閉音が。まさか?! 慌ててキッチンから飛び出しました。けれど、時すでに遅し。
収納扉は開き、押し込んだ物たちは雪崩のように崩れ落ち、床一面に散らばっていました。呆然とする私に
「この収納、使いやすそうでいいわね!」と義母が無邪気な笑顔で話しかけます。
「片付けるので、リビングに行ってください」と絞り出した声は、自分でもゾッとするほど冷たく響きました。
無表情のまま手際よく物を押し込み、片付け終えたころ、今度は二階から物音が。案の定、全室チェックされ、クローゼットの扉も全開に。猛烈な怒りがこみあげ、泣きそうになりながら扉を閉めて振り向くと、そこにはカーテンを全開にして外を眺める義母の姿が。その背中は、充実感と達成感で輝いて見えました。
「いい嫁キャンペーン」完全終了

あらゆる感情が突き抜け、無の境地に達した私。その後は菩薩のごとく微笑みながら義母をもてなしました。冷蔵庫を勝手に開けられても、朝食にダメ出しされても、微笑みを絶やすことはありません。
そして義母が帰った数日後、菩薩からただの人間に戻った私は、もう二度と義母を泊めないと心に誓ったのです。それ以来、「遊びに行きたい」と連絡が来れば、「じゃあホテル取りますね!」と、即予約。もはや「いい嫁」のカケラもない対応ですが、驚いたことに、義母からの反応はゼロ。拍子抜けするほど、何も言ってきませんでした。
その様子を見て、これまで私が懸命にしてきた気遣いも、義母にとっては案外「どうでもいいこと」だったのかもしれない… そんな風に感じたのです。義母とうまくやるには「いい嫁」でいるしかないと信じて、長いこと我慢を続けてきました。
しかし振り返ると、それは本当に必要だったのか…。今では頑張って相手に合わせることよりも、自分がどう在りたいか、どんな関係を築きたいかを大切にしたいと思えるようになりました。大切にしたい相手なら、少し無理をしても歩み寄る。
でも、そうじゃないなら、自分の心を守る方を選ぶ。どこまで頑張るかは自分の気持ち次第。義母のために頑張った私、ありがとう。そして「いい嫁」であろうとした私、さようなら。
(ファンファン福岡公式ライター/さち)


