新・祖母が語った不思議な話:その拾肆(17)「数える」

 明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応え第3シリーズをお送りします!

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

 今から500年ほど前の話。
 岡山に半太という腕の良い猟師がいた。
 特に人々に害をなす大型の獣を仕留めることでその名が知られていた。

 あるとき村から家畜や犬猫、赤子までが消える事件が起こった。
 相談を受けた半太は現場に残った足跡や毛、そして匂いから当たりをつけ山奥の岩屋に出かけた。

 岩屋の主は留守で、そこにはいろんな動物の骨や喰い散らかされた残骸が山と摘まれていた。
 半太はその山の中に潜り込んだ。

 しばらく待っていると大きな影が帰って来た。
 甲羅を経た(歳を重ねた)大猿だ!

 こちらには気がついていない。
 半太は火縄に火を点けると大猿の眉間に照準を合わせた。
 
 ダーン!

 見事に一撃で仕留めた。
 その音に火のついたような泣き声が重なる。
 攫われた赤子だった。

 その子を抱え岩屋を出ようとしたとき、生まれて間もない斑猫(ブチネコ)がいるのに気づいた。
 「親兄妹は喰われたのか…」
 半太は猫を懐に入れ、山を下りた。

 それから5年。
 半太の家で飼われるようになった斑猫はタマと名付けられ、元気に大きく育った。
 名前のせいか弾を作るのを見るのが好きで、半太が溶かした鉛を型に流し込むときは必ず横にいた。
 出来上がった弾が型から抜ける度にこくりこくりと頭を下げ、まるで数を数えているようだった。

 そんなある日、ふだんから仲の良い鋳掛屋が襲われる事件が起こった。
 なんとか一命はとりとめたが、家は荒らされ不思議なことに鉄鍋が消えていた。
 傷から見てやったのは大型の獣だ。
 このままにはしておけない…半太は退治することにした。

 その夜、弾を作っていると誰かに見られているような気配がする。
 外に出て見渡したが誰もいない。
 戻ってみると、いつも通り九発(一桁数字の中で一番大きな数の九には特別な力があると考えられていた)作って置いていた弾のうち一発をタマが咥えて外へ出て行った。
 やれやれと思ったが、溶かした鉛はまだあったのでもう一発作った。

 翌日、朝早く家を出た。タマは昨夜から帰ってきていない。
 半太はここだと思われる山を巡ったが不思議なことに一羽の鳥の気配すら無い。
 日が落ちるまでねばったが手掛かり一つ無い。
 仕方がないので山を降りたときにはとっぷりと暗くなっていた。

 月夜ということもあり、夜目が効く半太は提灯にも火を入れず村に戻っていた。
 そのとき、脇の竹薮から嬉しくてたまらないような笑い声が聞こえた。
 見ると闇の中に大きな目が光っている。

すわ!と眉間を狙って撃つがカーンと跳ね返された。
カーン!カーン!カーン!カーン!
九発撃ち終えたそのとき、暗闇から声がした。
「今ので九発…もう弾は無うなったなぁ。この日を待ったぞ。母の敵(かたき)め」
そう言うと影は半太に何かを投げ付けた。
カラカラと転がって来たのは鉄鍋だった。

 影は竹薮を抜けどんどん近づいて来る。
 もう駄目か…諦めかけたそのとき、半太の手を何者かが噛んだ。
 タマだ。…まさかお前も仲間!?
 一瞬そう思ったが、タマの横に弾が一発転がっているのに気づいた。
 これまでにない早さで弾を込め、そして放った。

 ダーン!

 影はどうっと崩れ落ちた。

 それは5年前に半太が倒したものにそっくりな大猿だった。

 「あれは母猿だったのか…うん?これは!」
 あらためて鉄鍋を手に取った。
 弾を受けた跡が九つ。

 「眉間を狙うと知って被っていたんだな。射っても効かないわけだ…あの晩弾を数えていたのか、恐ろしいやつ。お前はそれに気づいて一発隠しておいてくれたんだな」
 そう言いながらタマの頭を撫でた。
 「ミャ〜」
 タマは自慢げにこくりと頷いた。

チョコ太郎より

 お読みいただき、ありがとうございます。「祖母が語った不思議な話」シーズン3、スタートいたしました。ご希望や感想、「こんな話が読みたい」「こんな妖怪の話が聞きたい」「こんな話を知っている」といった声をお聞かせいただけると連載のモチベーションアップになりますので、ぜひぜひ下記フォームにお寄せください。一言でも大丈夫です!

※この記事内容は公開日時点での情報です。

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