新・祖母が語った不思議な話:その弐拾壱(21)「夏休み」

 明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズです!

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

 小学二年生の夏、一人で母の実家に一週間泊まりに行った。
 祖父と釣りに行ったり、叔父と虫取りをしたり夏を満喫、あっという間に楽しい日々は過ぎ去っていった。

 明日はもう帰るという日、母の一番下の妹で十八歳になるヨウコ叔母さんが愛車の水中メガネ(ホンダZの愛称)で海に連れて行ってくれた。
 二人で昼前まで泳いでいたが、突然黒雲が湧き上がりゴロゴロと雷が鳴った。
 これは大変と、急いで海の家に駆け込むのと稲妻が光るのが同時だった。

 「ちょうどお昼だから、なにか食べよ! 何がいい?」
 「カレ−ライス!」
 「ほんとカレ−好きだね!」
 叔母は笑いながらオーダーした。

 海面ではねる無数の雨粒を見ながら二人並んでカレ−を食べた。

 「なかなか止まないね」
 「どうせ濡れるのに不思議な気もするよね。小降りになったら泳ぐ?」
 「う〜ん…かみなりがこわいや」
 「じゃあ、お話してあげようか? 実はここの海、女の子の幽霊が出るって評判だったのよ」
 「えっ! ゆうれい? してして!」
 「あ、その前にジュース飲もうかな。何がいい?」
 「オレンジジュースがいいな。あ、ボクが買ってくるよ! ヨウコおばちゃんは何?」
 「じゃあコーク」
 「コーク?」
 「コークと呼ぼうコカ・コーラ♪」
 「OK!」
 渡されたお金でジュースを買うと急いで叔母の所へ戻った。

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 【叔母の話】
 
 一昨年の8月のお盆過ぎにも、ここに来たのよ。
 海月が出ていたから、泳いでいる人はまばらだった。
 私の目的は学校の課題に使う貝殻集め。
 ずっと下を見ながら砂浜を探していると目の前に脚が二本。
 顔を上げると5、6歳くらいの女の子が立っていて、「何してるの?」と聞く。
 「いろんな貝殻を集めているの」と答えると手伝うと言う。
 真っ黒に焼けた可愛らしい子で朋子ちゃんという名前だった。

 二人で集めたから持っていたバケツはすぐにいっぱいになった。
 
 「ありがとう! おかげで助かったわ。お礼にアイス買ってあげる」
 そう言ったんだけど、朋子ちゃんは首を振ってある方向を指差した。
 「あれに乗りたいなぁ」
 「ボート? うん、いいわよ」
 というわけでボートを借りて漕ぎ出したの。

 海は凪で滑るように進んだよ。
 岬の岩場を回ると真っ白な砂浜があった。

 「わあきれい! あそこに行こうよ」
 「いいわよ」
 ボートを砂浜につけると朋子ちゃんは砂浜に向かって駆け出した。
 その後を追って歩いていると珍しい貝が転がっていてね。それを拾って顔を上げると朋子ちゃんがいなくなっていたの。

 「朋子ちゃ〜ん! 朋子ちゃ〜ん!」
 砂浜から松林…岬の岩場まで慌てて探しまわったけれどどこにもいない。
 大変なことになったと思い、急いで海の家まで戻って警察に電話したの。
 それから5分くらいでお巡りさんが二人駆け付けたんだけど、その5分の長さってなかったわ。

 状況を説明すると若い方のお巡りさんは海の家のお店の人やお客さんに聞き始めた。
 私は年配のお巡りさんと一緒にボートでもう一度同じコースを辿ったの。

 お巡りさんは水中も見ていたけれど朋子ちゃんはいない。
 彼女が消えた砂浜に上がって探したけれどいない。
 お巡りさんからは何度も「勘違いじゃないですよね?」と聞かれたわ。
 違うと答えると「この辺り、女の子の幽霊が出るって噂があるんだけど…もしかしてそれ聞いたりしてる?」
 この言葉に、『朋子ちゃん…もしかしたら…』とちらっと考えたよ。

 松林の中を探しながら戻ろうということになり、お巡りさんと海の家の方に歩いて行くと、向こうから若い方のお巡りさんと母娘が歩いて来た。

 「いました、いました! この砂浜まで来たときに急に『母親が心配している!』と不安になって駆け戻ったそうです」
 「お騒がせしてすみません。ほら謝りなさい」とお母さん。
 「ごめんなさい」朋子ちゃんは照れくさそうに頭を下げた。
 「よかった! 幽霊じゃなかったんだ」
 「えっ?」
 「いえ、朋子ちゃんが無事でなによりでした」

 朋子ちゃんはお母さんと帰って行った。
 「一件落着ですな。ああ、ボートは我々が戻しておきます」
 日も暮れかけていたので私はお巡りさんたちにお礼を言って帰ったわ。

 翌日、「すぐ来てほしい」と昨日のお巡りさんから電話があってね。
 何事かと思って交番に駆け付けると驚く話を聞いたの。

 「あの後、ボートを海に出そうとした時、岩場の下に白いものがあったんですわ。拾い上げてみるとたぶん顎の骨…子どもさんの。昨日のこともあったんで来てもらったんです」
 その後、他に不審な人を見なかったかとか変なものが捨てられてなかったかとかいろいろ聞かれたけど…何も知らないとしか答えようがなかったわ。

 それから三カ月くらい経ったころ、あの骨は数年前に海で行方不明になった知子という子だと判明したと連絡があった。
 歯を治療した跡から分かったんだって。
 字は違うけれど朋子ちゃんのおかげで知子ちゃんを見つけて供養することができたというわけ。
 ね、不思議じゃない?

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 「ふしぎだね! でもいいことしたね」
 「そう! だからここにはもう幽霊は出ないよ。あ、日が差してきた! もう一度泳ぐ?」
 「うん!」
 「じゃあ〜〜〜〜競争!」
 「あ、ずるい!」
 一足先に走り出した叔母を追って海に向かって駆け出した。

チョコ太郎より

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